シリーズ物

□想い出は、淋しさの別の名前。
1ページ/1ページ

一話目
「想い出は、淋しさの別の名前。」
*風間視点





どこに、いる。
ずっと、ずっと探している。

幼い時に、蘇った記憶、思い出。

それは今の時代よりももっと前の。
所謂、前世の思い出。

最初はただの夢だと思っていた。
だから、幼い頃は、己が人を斬る夢を見ると泣き出して、よく親を困らせた。

夢ではなく、記憶なのだと思ったのは、一度あの時代の夢を見ると、起きた後に夢の続きを思い出せたからだ。

そうして俺は記憶を取り戻し、約束を思い出した。

愛しい者との再会の約束。

思い出したのは、小学生の頃だ。
もう、二十年も探している。

土方歳三。

それが、俺が愛し、俺を愛してくれ、来世も共に在ろうと約束した者の名。










駅のホームで、行き交う人を眺める。
これは、日課だ。

人を探すならば、人の多く集まる場所に行けば良い。

そんな安易な考えだ。
だが、他にどうしたら良いのか、悔しいが分からない。

何かしら手掛かりがあるのならば、興信所なりに頼めるが、手掛かりは無い。
そもそも、転生しているのかも知りようが無い。

ただ、記憶が蘇った時からある薄れる事のない『会いたい』という想いだけで、俺は行動している。



一人で壁に凭れ人の顔を見ている男など別に珍しくもないだろうに、たまにチラチラと見てくる者も居る。
声を掛けたそうに見てくる女も居て、そういう時はその場を離れるに限る。
俺は壁から離れ、目的なく歩き出す。
基本、人が多い場所は嫌いだ。

不意に「風間」と呼ばれ、バッと声がした方を見る。

手を振る赤い髪の人物に、小さく溜め息が漏れた。
そう都合良く会えることはないと、身に染みて解っていても、名前を呼ばれると過剰に反応してしまう。

「おっまえなぁ、人の顔見てそんな残念そうにするなよ、傷つくだろ」

赤い髪の男、原田左之助は高校の時からの付き合いだ。
原田もまた、前世の記憶がある。
前世の原田は、新選組隊士で、土方の部下だった。

過去の話をすると、原田は驚き、それでも今は関係ないからと、土方を探すのを手伝ってくれている。
数少ない俺の友人だ。

「その様子だと、今日も見つからなかったんだな」

頭を撫でてくる原田を睨み、「そうだ」と返す。
原田は苦笑しつつ、俺の手を取る。

「おい、」

「お前、何時からここに居るんだよ、どうせまた飯も食わずに立ってたんだろ」

この駅に来たのは三時間ばかり前だが、その前に二つの駅で立っていた。
腕時計を見ると、家を出てから十時間経っていた。
言われて思い出したように、お腹が空いてくる。

「図星だな。……風間、頼むから、飯と睡眠はちゃんと取れ。また倒れた、なんて電話が掛かってきたら、本気で怒るからな」

溜め息を吐いて言う原田に、申し訳なくなり俯いてしまう。
以前に、仕事上がりに駅に行って、倒れたことがある。
あの時は、一週間不眠不休で仕事を終え、ろくに飯も食わずにいたからだ。
駅で倒れた俺に、駅員がケータイ電話を調べ、一番通話履歴の多かった原田に連絡をしたのだ。
救急車より早く駆け付けた原田に泣かれてしまったのは、まだ記憶に新しい、というかそれは半年ほど前だ。

「まぁ、お前の様子を見に行けなかった俺も、ちょっと悪かったなって思ってるけどな」

原田がすまなさそうに言うものだから、俺は益々身の置き場に困る。

「貴様は、悪くないだろう……貴様は、俺を甘やかし過ぎだ」

高校・大学と一緒で、原田は何かと俺の面倒を見てくれていた。
それは、現在進行形で、今も毎日俺の家に来ては夕食を一緒にしている。
家が近いせいもあるのだろうが、それにしても、世話好きというか……。

「しょうがねぇだろ、お前をほっとけねぇんだから」

「……物好きだな……俺にばかり構っているから、恋人が出来ても振られてしまうのだ」

「あー……そんな事言うかぁ?」

原田は困ったように笑ってから、まっ良いや帰るぞ、と俺の手を引いて歩き出す。

なぜ、原田はこの優しさを彼女に使わないのかと、不思議でならない。
俺が知る範囲で、原田にはいままでに四人ほど彼女が居たように思う。
そういえば、知っている内で最後にいたのは大学時代だ。

「風間」

「何だ?」

前を歩く原田が少し振り返る。

「夕飯、何食いたい?」

「……何でも良い、貴様の作る飯は何でも美味しい」

「そりゃ嬉しいな」

屈託なく笑う原田。
俺はそっと視線を外す。
原田は良い友人だ。
なのに、俺は、この手を引くのが別の者、土方であって欲しいと思ってしまう。


優しい者に手を引かれながら、心は別の者を求めている。

土方。
どこに、いる。
貴様が言ったのだ、また俺の隣に居てくれと、大丈夫だと。
どうして、見つけられない。
俺の想いが弱いのか?

土方に記憶が無くても、逢えばきっと解る。
その自信はある。

長い時間探し続け、色々考えもした。
既に愛しい相手がいた場合や、土方に記憶が無い場合は勿論、本当に、考える時間は沢山あって。
それでも諦める事は出来なくて。

俺の心には、ずっと大きな穴が開いたままだ。

「土方」

小さく小さく呼ぶ。
『泣くなよ、千景。大丈夫だから。約束しただろ、また逢おうって』

最期に見せた笑みも、言葉も、全て思い出せる。
腕の内をさらさらと崩れていく愛しい身体を、俺は、何も出来ずに泣いて……。


「ああ、近藤さんか?……あぁ今から戻るから、っと、すみません、ん?いや、こっちの話だ…そう、原稿貰ったから戻るから」

階段を駆け降りる者に肩がぶつかり、瞬時に謝られて、顔を上げた時には既に背中も遠い。

「風間、大丈夫か?」

「ああ……原田、今の、」

振り返る原田に頷き、もう見えない背を探す。
何だろう、胸がざわざわする。
なぜか、懐かしい気がした。

「どうした、風間」

心配そうに顔を覗いてくる原田に、首を振る。

「いや、……多分、気のせいだ」

この駅は、もう何年も使っていて、もう何度となく探しに来ている。
ここで出逢えるなら、きっともっと早く逢えているはずだ。

俺は思考を思い出から引き上げて、歩き出した。












up/2014.05.17
お題:雪華

.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ