桜下恋想記

□花ビラ散らし
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嫉妬する。
君の瞳に映るもの全てに。
ずっと、僕だけを映していたら良いのに。
その心が、僕にだけ、向いていたら良いのに。

昼の巡察中に見つけた、満開の桜の木。

恋仲である風間と、見たいなって思って。
夜、こっそり屯所を抜け出して、誘って連れて来たのは良いけど……。


目を細めて、うっとりと桜を眺めている風間。
喜んでくれて嬉しいし、その横顔は美しいし。
けど、その横顔は、僕が隣に居る事を忘れているんじゃないかと、不安にさせる。
と、風間が小さく笑って、僕に視線を向けてきた。

「沖田」

「な、何?」

「桜を見に来たのではないのか?貴様は、先程から俺ばかり見ているようだが?」

「それは……風間が、桜ばかり見てるから」

少し開いていた距離を埋めて、抱き寄せると、風間は大人しく腕の中に収まってくれる。

「桜を見に行こうと言ったのは、貴様だろう」

「そう、だけど」

風間の目が楽しげに細められ、僕の心の内なんて、お見通しだと言わんばかりに、口角を上げる。

「桜に妬くとは、子供のようだな、貴様は」

そう風間が微笑むから、なんだか悔しくなって、その唇を塞ぐ。

「んっ……」

唇の隙間から漏れる艶のある吐息。
口付け抱きしめたまま、少し歩いて、風間の背を桜の木に凭れさせる。

舌を口内に侵入させると、微かに体が強張るが、風間の舌に擦りつければ、求めるように風間の腕が僕の首に回されて。
何度か角度を変え、深く互いの口内を貪り合う。
唇を離すと、唇を結ぶ銀糸。
風間の口端から溢れた唾液を舐めとる。

「子供は、こんな事しないと思うけど?」

僕が言うと、風間は又少し笑う。

「…今夜は、機嫌が良いんだね、風間」

「何故そう思う?」

「だって、よく笑ってくれるから」

頬に口付けつつ言えば、眉を寄せる。

「俺が笑うのは、変だとでも?」

「違うよ、そうじゃなくて…」

「沖田」

「なぁに?」

「俺が何故、機嫌が良いのか、当ててみろ」

どうやら、今夜の風間は本当に機嫌が良いらしい。
こんな事を言ってくるなんて、珍しい。

「当てたら、何かくれるの?」

額をくっつけて、至近距離で、紅い瞳を覗き込む。

「貴様、この俺に物をねだるつもりか」

「だって、こんな遊びって、何かご褒美がないと、当てる気にならないじゃない」

「む……それもそうだな……言ってみろ」

僕は、風間の唇を指先で突ついて。

「風間からの接吻。それと、好きって、言って欲しい」

実のところ、今まで一度も、風間から口付けられた事が無い。
好きって言葉も、恋仲になった時の一度きり。
風間の気持ちは知っているけど、でも、もう少し風間の方からもして欲しいと思う。

風間は、恥ずかしそうに少し視線を逸らして、それでも「分かった」と返事をくれる。

「機嫌が良い理由だよね?」

じっと風間を見つめて、考えてみる。
こう言ってくるって事は、少なくとも僕に関係があるのだろうか。
もしそうでないなら、僕に分かるのだろうか。
恋仲になって、まだ日も浅いし、鬼と人では、考え方も違ってくる。

さっきまで、風間が嬉しそうに桜を眺めていたのを思い出して。

「夜桜が見れたから……とか?」

僕の答えに、風間は不満そうに。

「それだと、間違ってはいないが、不十分だ。
だから、接吻のみだな」

僕の顔を引き寄せて、重ねられる唇。
少し触れて、すぐに離れてしまう。
それでも、風間からの口付けに、僕が興奮しないわけもなく。
僕は離れた唇を追って、重ねる。
口内に舌を差し込み、風間の舌と絡ませる。
下肢に手を伸ばし、着物の合わせ目から滑り込ませ、風間の中心に触れる。

「んっ……ふっ、ぁ……」

漏れる息に熱が籠り始めて、息苦しいのか、弱々しく肩を押してくる手に、唇を離す。
濡れて赤みを増した唇と、潤んだ瞳。

「貴様……こんな、場所で……あっ」

非難めいた口調とはうらはらに、首筋に口付けると、素直に反応を示す風間が可愛くて仕方ない。

「ごめん。でも、風間も我慢出来ないでしょ?」

触れている中心からは、熱が伝わってくるし、溢れる雫が指先に絡みつく。
耳元に唇を寄せ囁き、耳朶に舌を這わせると、目元を赤くして、悔しそうに睨み付けてくる。

「立ったまま、するつもりか?」

「大丈夫」

もう春で、温かい日が続いているけど、夜は少し冷え込むからと、着てきた羽織を脱いで、地面に広げる。



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