桜下恋想記
□穏やかな午睡
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仕事の帰りに、町を歩きながら、これからどうしたものかと、思考を巡らせる。
一先ず、急ぎの物はもう片付けてしまったが、文机の上にはまだ片付けねばならない書類は残っている。
だがこの4・5日ばかり部屋に籠りっきりだったので、体が鈍っている気もする。
徹夜続きで寝不足の為、出てくる欠伸を噛み殺し、歩を進めていると前方から見知った者が歩いてくる。
向こうも俺に気付いたようで、僅かに笑みを浮かべるので、俺の口元もつい綻んでしまうが、慌てて引き締める。
自然と歩く速度を弛め、近づいてきたところで、立ち止まる。
「仕事人間の貴様が、一人で町を歩いているとは珍しいな、土方」
そう声を掛けてきた風間は、何故か機嫌が悪そうだ。
「今だって、仕事の帰りだよ」
風間が機嫌が悪いのには、心当たりがある。
実は先日の夜、屯所に会いに来てくれたのだが、まさに仕事の山と奮闘していた俺は、風間を追い返したのだ。
「悪かったな、この間は…追い返したりして」
こいつの機嫌を損ねると、酷い目に合う。主に床の上で。
一応謝っておくか、とそう言葉を述べると、風間は手を伸ばしてきて、両手で俺の頬を包む。
「風間?」
優しく触れてくる手に、胸が鳴る。
風間は俺の顔をじっと見つめ。
「仕事の帰りという事は、今からは少し時間があるな?」
詰問するような強い口調に、やや戸惑いながらも「まぁ、少しは」と答えると。
「ならば、俺に着いて来い」
着いて来い、そう言いながら風間の手は俺の手首を強く掴み、引っ張るように歩き出し。
「お、おい風間、何だよ、急に」
「良いから、黙って着いて来い」
強引な奴だ。
俺は溜め息を吐いて、手を引かれながら風間の少し後ろを歩く。
着いたのは、風間の使っている宿だ。
「おい、てめぇ何企んでやがる」
「俺は何も企んでなどいない」
部屋に入るなり、風間は壁を背に胡座をかいて座ると、俺を引き寄せる。
「来い、土方」
何をされるのかと身構えた俺に、風間は随分と柔らかい声音で続ける。
「今日は何もしない。だから、座れ」
渋々風間の隣に座ると、抱き寄せられ……
「おい、何だこれは」
風間の膝の上に座らされる。
「全く、いちいち煩い奴だ。少し目を閉じていろ」
風間は強引に俺の頭を己の肩に乗せると、そのまま優しく頭を撫でてくる。
「目を閉じろって…やっぱり何か企んで」
「いない。貴様は俺を何だと思っている。俺が良いと言うまで、大人しく目を閉じていろ」
呆れた口調で、だが穏やかな笑みで言われて、俺は目を閉じた。
風間は優しく俺の頭を撫で続けていて、それが心地良く、徹夜続きの俺はしだいに眠気に誘われる。
いくら待っても風間は「良い」とは言わず、このままだと眠ってしまいそうだ、そう思っていると。
「全く、目の下にクマなど作りおって…美しい顔が台無しではないか」
頭の上で、風間が小さく呟く。
台無しと言われる程、俺は酷い顔をしていたのだろうか。
だが、これはこいつなりに俺を気遣っての行為なのだと思うと嬉しくて。
今日ばかりは、風間の優しさに甘えようと、俺は眠気に身をまかせた。
終
UP/10.05.18
最後までお読み頂き、有難うございます。
上月様との相互作品の為、上月様のみお持ち帰り可。
以下私信。
上月様、この度は相互リンク、本当に有難うございます。
これからも宜しくお願いします。
そして小説の方は、リク通り甘々になっているか不安です。
気に入らないようでしたら、書き直します。遠慮なく言ってやって下さい。
では失礼致します。
ヒヨ太