桜下恋想2
□20171218-天風
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冴々とした月が夜空に浮かび、月明かりが深と静かな夜を満たしている。
月を肴に酒を楽しんでいた風間は、盃を置くと呟く。
「退屈だ」
その言を聞き、傍らで文机に向かっていた天霧が眉を寄せる。
薩摩からの文が山となっていて、その返事を書いている最中だ。
「退屈だと言うなら、少しは手伝って下さい」
溜め息混じりに天霧が言えば、風間は置いた盃に酒を注いで、それに口を付けてから、ゆっくり答える。
「面倒だ。やれどこそこの誰と会うから護衛しろだの、あちらの藩を調べろ、京の急所はどこだだの、そんなものに目を通すだけ無駄だ」
そんなものに俺達を使うとは、そう風間は腹立たしげに溢す。
天霧もその言葉に反対はしないが、一応薩摩に手を貸している間は、従っておくべきだと思っているので、来た文には目を通し返事が必要なものには返事をしている。
風間がそれらの雜事を全て天霧に寄越すので、自然天霧の仕事量は増す一方だ。
その天霧の横で退屈だなどと溢す風間に、天霧は疲労を覚える。
少し休もうと筆を置いた天霧を見て、風間は声をかける。
「どうした?」
「少し疲れましたので、休もうかと」
答えた天霧に、風間はふむと思案顔になると、次には微かに笑みを浮かべた。
天霧の隣に移動すると、文机に置いた天霧の右手に自身の右手を重ね、するりと撫でる。
「風間?」
唐突な風間の行動に天霧が訝しげに名を呼び、隣の風間を見やれば、艶然と笑む紅い瞳とぶつかる。
「貴様の労を労ってやろうと思ってな」
低い声が囁き、天霧の唇に風間の唇が重なる。
酒気を帯びた吐息が天霧の唇に触れた。
「私は休む、と言ったのですが」
互いの吐息が混じる距離で天霧が言えば、風間は睫毛を伏せる。
「すまない、気持ちの良いことをすれば、疲れも取れるかと思ったのだ」
わざとしく落胆してみせる声音に、天霧は溜め息を落とす。
ご自分がされたいだけでしょう、そう返した天霧に風間は頬に朱をのせ頷く。
天霧、と期待の込められた瞳に苦笑し、天霧は風間の唇に再び口付ける。
それは了承の意。
どちらからともなく舌を出し、ぬるぬると擦り合わせる。
すぐにぴちゃりと水音が落ち始める。
天霧の舌は風間の口腔内に入り込み、上顎の裏、歯列と舌の届く範囲を舐め回していく。
そうして口付けながら、風間の羽織を肩から滑らせる。
パサリと乾いた衣の音が響く。
ついで帯へと手をかけ、僅かに弛める。
風間は大人しく任せている、というより口付けに夢中のようで、天霧が舌を吸い、唇を舐めていく度に小さく体を震わせ抑えた喘ぎを溢し、天霧の首に腕を回して引き寄せる。
密着した互いの体が熱くなっていくのを感じ取ると、ゆるりと唇を離す。
唾液が糸を引き、プツリと切れる。
「天霧…」
濡れた唇は一層艶かしく吐息を溢して、天霧を呼ぶ。
「布団を敷きますか?」
「いい、待てぬ」
言いながら、天霧の首を引きつつ傾ぐ風間の体を支え、天霧は小さく笑い、口付けを落とす。
月明かりが満たす部屋に、風間の微かな喘ぎが満ちるのは、すぐだった。
おしまい
up/2017.12.18
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