桜下恋想記

□初音
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「俺を好きにして構わんのだぞ」

そう耳元で囁きかけてやれば、土方の瞳が揺れる。
理性と、本能の狭間。
堕ちてこい、と見つめる瞳に力を込める。
貴様は俺を怒らせたのだ。
好きな相手としろ等と、馬鹿な事を言ったのだ。
好いた相手以外と、その上同性とSEXするなど論外だと思っているのだろう、この頭の固そうな男に、思う存分好きに俺を抱かせ、後で盛大に笑ってやる。


土方の手がするりとバスローブの腰紐を解く。
肌の上を熱っぽい視線が、舐めるように、何かを確かめるようにゆっくりと撫でていく。
土方の瞳に、一瞬、葛藤が浮かんで消えた。

「っあ、……ぅんっ…」

両手で腰を掴むと、一気に奥まで突いてきた。
流石に一息に挿れられるとは思っていなかったので、堪えきれず声が上がる。
熱い塊がみっちりと押し入ってくる感覚に、知らずぞくりと体が震えた。

普段、あまりそこは使わない。
そこを使わなくても満足する客もいるし、したがる客にはあの手この手で時間を掛けて誤魔化している。
それでも、店の立場上どうしても断れない相手に求められた時だけ、応じている。
この薄桜楼に身を置く事に不満は無いが、男に抱かれるのが好きでここに居るわけでは無いのだ。

ゴムを着けている時とは違う感触が、体の内側を擦り上げる。

「ふっ……ンッ…」

あまりしない、という事は慣れていないと言う事で、慣れていない快感に意識を持っていかれそうになる。冗談ではない。

土方は最初の躊躇いが嘘のように激しく腰を動かし、内を突き上げてくる。
俺は掴まっていられず、土方の首から腕を解いて、ベッドに身を沈める。
一体どんな顔で俺を抱いているのか、後のからかいのネタにしてやろうと、土方の顔を見上げて、息を飲む。

瞳には確かに欲情が宿っているのに、まるで冷静に俺を観察しているかのような澄んだ目をしている。
それは、一つの火のようだ。燃える火の赤い部分と青い部分は、温度が違う。
その派手な赤と、静かな青が、土方の瞳に灯っている。
なんなのだ、こいつは…。
いままで俺を抱いてきた客とは、全然違う眼差しで俺を見ている。

瞬間、土方のものが、内側にある一点を掠め、反射的に背が仰け反る。

「あぁっ……」

ひくりと喉が震える。
途端、土方の動きが止まり、俺の顔を覗き込んでくる。前髪を指先で払われ、そのまま頬を撫でてきた。

「…大丈夫か?」

気遣う声音に、カッと頭に血が昇る。
翻弄したい相手に心配されるなど……否、これも手か。
俺は頬にある土方の手を取り、先程火に例えた目を真っ直ぐ見返す。

「もっと…ゆっくりしろ」

挿入された事で生理的な涙が出ているから、潤んだ瞳と恥ずかしがる態度を合わせれば、相手の心を惹くのに効果的だ。
案の定、土方は怯んだらしく、悪い、と小さく呟き、腰の動きを弛めた。
ふふん、見たか俺の手管!
内心勝ち誇っていたが、土方の片手が俺の自身に伸ばされ、慌てる。

「なっ、なに……ンンッ…」

自身を握り、パタパタと腹にまで落ちてくる先走りの液を全体に塗り込めるように、ゆるゆると扱かれ、つい気持ち良さに声を漏らす。
そうして扱きながら、内の凝りを摩擦してくるので堪らない。
何だ、こいつは…!最初はあんなに嫌がっていたくせに!
いや、待て、これはこいつが俺に堕ちたという、そういう事ではないか?
ならば仕方ないな、俺の魅力の前ではノーマルだろうと陥落するのだ。

それはそれとして。
少し、もどかしくなってきたのだが。

土方は先程の俺の言を守り、酷くゆっくりと動いていて、その一定のリズムは、達するには僅かに物足りない。
だが、激しくして欲しい等と言うのは、俺が降参したようで悔しい。

それとなく、遠回しに伝える方法はないものか…。
考える為に俺は、握っていた土方の手を更に強く掴んだ。
その時、土方が何を思ったのか、顔を逸らしていた俺は、土方の表情を見れなかったのだが、土方は急に腰の動きを早めた。

ドクッ、と内のものが一際強く脈打った。
直後、熱い奔流が最奥に打ち付けられる。

「ああぁぁっ―――」

中に出された、と思う間もなく、その刺激がびりびりと体を走り、俺も達してしまった。
吐き出された自身の精が胸元にかかる。
なんだ、いまのは…?
いままで感じた事のない強い快感に、戸惑い、土方を睨み付ける。

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