メモ@

独り言だったりネタだったりSSだったり。


◆大学生武三 

大学生武三/ハロウィンだよー



仮装して歩く人々の間をぬうように歩いて、舌打ちが漏れた。
騒がしくて、煩わしい。
武田がバイトとして働いている喫茶店も、今日は仮装している客が多かった。
ハロウィンの生まれや背景などろくに知らず騒ぎたいだけの連中は、本当に低能で他人への迷惑も考えない。
店内にゴミを撒いて帰ってしまったので、その片付けで遅くなってしまった。

上着のポケットに入れているスマホが振動する。確認すると三木君からだ。
『珍しく遅いな。悪い、夕飯どっかで買ってきてくれ』と、心配してくれている様子のメッセージに嬉しくなる。
返事をしながら、そういえば三木君は今日はハロウィンだと気づいているだろうか、と考えて思い付く。

私が『トリック・オア・トリート』なんて言ったら、どんな反応をするのだろう。
ハロウィンに特別興味があるわけではないし先程まで、それを理由に騒いでいる者を馬鹿にしていたのだけれど、三木君がどうするのか、その一点にはとても興味がある。
まぁ、三木君のことだから無視するかな。


コンビニで買った弁当を片手に帰宅する。「ただいま」と部屋に入って行くと、既に居る三木君が「おかえり」とだけ寄越す。
見れば、課題なのかテーブルの上は開いた本が数冊乗っていてノートにペンを走らせている。
三木君お弁当買ってきたよ、と声をかけるも生返事しか返らない。ふむ。

「三木君…トリック・オア・トリート」

そう言ってみる。三木君は私のほうを見もせず、左手を差し出してきた。思わず両手で受け取る。
これは、今忙しいから黙って大人しくしてろ、そういう態度だ。嬉しい。
三木君は真面目で誠実で、だいたい誰に対しても優しく、雑な対応はしない。そんな三木君が私には、こんな態度を取ったりする。
心を許してくれている、そう思えて嬉しい。そんなことを言ったらきっと三木君は、お前は変な奴だなってあどけない笑顔を見せるのだ。
三木君の左手にマッサージを施しながら、思い付く。
三木君の手を持ち上げ、そっと手の平に口付ける。ちらりと三木君を見ると視線が合うものの、三木君は興味なさそうにまたノートに向かい合ってしまう。
親指の付け根あたりに歯を立てると、三木君の指先がぐっと頬に食い込んできた。

「なにしてんだ、お前」

呆れたように言ってくる。

「私は、トリック・オア・トリートって言ったんだよ、三木君」

私の言葉に、何言ってんだお前、そう言ってからやや考え込むように黙った三木君は数秒後、色々納得したようにハロウィンかと呟く。
武田、と声をかけてきた三木君はおもむろに身を乗り出してきて、とっさの事に反応出来なかった私はそのまま後方に倒れてしまう。ごんっと後頭部に痛みが走る。
痛みよりも、私の腰を跨いで馬乗りになってきた三木君が何やら不穏な、否、いやらしい笑みを浮かべていて目が離せない。
この流れはあまり良くない。

「武田、お前にとっては俺がお菓子ってことか?」

「そうなるね」

「じゃあ、俺の邪魔しないで大人しく待てが出来たら、後でたっぷりご馳走してやるから…待てるよな?」

身を屈めてきて耳元で囁く三木君の低い声は、それだけで腰にぞくぞくと快感が這い上ってくるようだ。
いつだって、簡単に主導権は三木君が握ってしまう。いや、違う…私は最初から主導権を三木君に渡している。

「大人しくしてるから、課題早く終わらせてね」

そう言った私に、三木君はどうしたのか、あーっと言いながら身を起こして片手で顔を隠してしまう。
今の返答は気にいらなかったのだろうか。
三木君、と呼びかけると顔を見せた三木君は楽しげに笑う。

「気が変わった。武田、トリック・オア・トリートだ」

「えっ…ええと、お菓子は持ってないよ」

返した私に再び身を屈めてきた三木君の顔が近づいて、ちゅっと音を立てて私の唇に三木君の唇が触れる。
ここにあるだろ、と吐息が唇にあたる。
たくさん食わせろよ、そう言った三木君の唇を私は自身の唇で塞いだ。





ハッピーハロウィン!
おしまい。

メールのお返事の下書きの続きを書こうとしていたはずなのに…未送信フォルダの一番上にこいつがありまして…つい…
ハロウィン過ぎてますが、書き出したのは10月30日だからセーフ!

2019/11/07(Thu) 03:57

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