Story
□ひとりよがり
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好きな人の好きなものなんて、見てれば分かる。
嫌でも、分かる。
色は暗い緑系。
服はシンプルでスマートなデザインのもの。
煙草はラッキーストライク。
音楽はゆるいハウス系。
カクテルはジンベースの甘くないもの。
映画より本が好き。
メールや電話より会って話す方が好き。
肉より魚が好き。
ジンジャーエールが好き。
マスタードが好き。
グラスをピカピカに磨くのが好き。
そして、ハルカが好き。
それが私の好きな人、トウタ。
そしてハルカでない私は一応、彼の恋人だったりする。
「―――3番テーブル、フライ盛り合わせ上がりー。」
「OK、行きます。 あ、6番テーブルに大根サラダ入りました。」
「6番、大根サラダね。 了解。」
「ミオ、手ぇあいたら、カウンター入ってカクテル作って。 一気に注文きた。」
「分かった。」
ダイニング&バー『クローバー』は、大学や専門学校、学生寮などが多く建つ一帯の片隅にある。
客は専ら学生達。
スタッフもマスター以外は、ほぼ学生のアルバイト。
毎年2人ずつほど、2年・4年サイクルで入れ替わるのは、すでに伝統のようになっているようだ。
けれど私がここでバイトを始めた年は、たまたま一気にスタッフが抜けてしまったらしく、私の他に3人も採用された。
その3人がハルカ・ヨシ・トウタ。
彼らは同じ大学で出身高校も一緒。
私だけが大学も高校も別だったけれど、店全体がフレンドリーな雰囲気があったせいか、同期の私達はすぐに仲良くなった。
そして私達も働き初めて3年目。
忙しい4年生に変わり、私達が中心となって店を回すようになってきている。
「ほい、大根サラダ上がり。」
主に調理場で料理を作るのはヨシ。
明るくて大雑把だけど、適当な仕事はしない。
後輩の面倒見もいいアニキ的存在。
「あ、私持ってくよ。 ミオはカウンター行っていいよ。」
ホールを明るい笑顔で駆け回るハルカ。
特に器量が良いわけでも無いけれど、雰囲気が可愛く、客にも人気があるようで、店の空気を良くしてくれる。
私がハルカに『お願い』と配膳を任せてカウンターに行けば、バーテンダーのトウタがいる。
彼は私の姿を見るなり棚からピカピカのグラスを4つ、ジョッキを2つ取り出して、カウンターにドンと置いた。
「モスコミュール3つと、ジントニック1つと、生中2つ、よろしく。」
「うわ、あいつらまだ飲むの。」
「あそこのラグビー部は酒豪揃いだからな。 出来たら持って行って。」
「はいよ。」
いつもはだらしなく伸ばした天然パーマの髪を、仕事中は後ろできつく結っている。
アゴにだけ生えてくる不精ヒゲをなかなか剃らずによくマスターに怒られるけれど、気怠い雰囲気の彼にはよく似合っていると思う。
常に無表情な彼だけど、わりと喋るし性格も暗く無い。
顔も案外キレイで、彼目当てにカウンターに座る女性客もいるほどだ。
作るカクテルは、勿論美味しい。
それがトウタ。
私の好きな人。
そして私の、恋人。
もうそろそろ、付き合って1年になる。
けれど、ずっと私の片思い。
だから私は、ずっと切ない。
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