Story
□やさしい人
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捨てられた犬や猫を、可哀想に思って片っ端から連れて帰ってしまう人がいる。
家にはそんな可哀想な奴らがぎゅうぎゅういて、世話されながらも言葉にならない声で不平不満をうったえている。
飼い主はそんな彼らに愛を注ぐので大忙し。
犬や猫達は順番待ち。
時には忘れられて。
リョウくんは、そんな飼い主にそっくりだ。
ねえ、ちよっと待ってよ。
そこに愛はあるの?
私は捨て猫だった。
生まれたものの、可愛くなくて貰い手がなかなか現れず、人間に心開けない野良猫になっていた。
なんて。
それは嘘だ。
例え話だ。
私はもちろん人間だ。
正しく述べよう。
私の顔には生まれつき大きなアザがある。
左耳から左目の辺りに広がる、赤紫の大きなアザだ。
成長すれば消えるとか言われて育ったものの、20年生きても消えませんコレ。
初めて会った人はみんな私の顔を見てぎょっとする。
優しい人は知らんフリしつつもチラチラと気にしてくる。
デリカシーの無い人は『なにかケガでもしたの』と聞いてくる。
心無い馬鹿は『うわっ、お化けみたい』と口に出して言いやがる。
でもきっとみんな思ってるだろう。
『お化けみたい』って。
そんなアザが私の顔にはある。
小学校では恰好のイジメの対象になった。
中学生になってからは伸ばした髪で顔の左半分を隠した。
アザのことでいじめられたりはしなくなったが、暗い奴と思われて私に近付こうとする人間はほとんどいなかった。
見た目で人を判断する奴なんかこちらから願い下げだ。
興味本位で近寄ってほしくもない。
そう思うようにしてた。
ええ、まあ、私はそんな感じで。
そんな分かりやすく人間不信になっていた私を、こっちが驚くくらいに簡単に手懐けてしまったのがリョウくん。
専門学校で2年に進級し、コース選択でクラス替えをした時に、隣の席になったリョウくんは、顔を合わせるなり私にこう言ってきた。
『そういう顔してたんだ』
最初は馬鹿にしてるのかと思い、物凄く腹が立った。
無言で睨み付けようと彼の顔を見たら、優しい顔で笑っていたのでびっくりしたのだ。
『ひとりが好きなの?』
独りが好き、ということにしていた。
その方が独りでいても楽だから。
でも私はついうっかり『別に』と答えてしまった。
素っ気ない返事をしたはずなのに、それは独りは好きでないことを晒してしまったことになる。
独りなんか、好きじゃなかった。
リョウくんは、そんな私の内なる心を最初から知っているみたいだった。
『そうだよね。 じゃあ俺と一緒にいてよ。 このクラス、知り合いいないんだ。 俺も独り、嫌だから。』
きっと私の存在は1年の頃から知っていたのだろう。
私の顔のアザは隠しても目につくし、安易に人を近付けさせないオーラを放っていることは自覚していた。
嫌な意味で目立っているのも知っていた。
独りの私を気遣ってくれた言葉だということは分かった。
リョウくんは人当たりが良さそうで、私なんかに声をかけなくても、すぐにみんなと仲良くなるだろうと思ったし、実際そうだったから。
同情されるのは大嫌いだった。
でも、不思議と嫌な感じはしなくて。
なんでだろう。
リョウくんは上っ面だけじゃなく、本当に一緒にいてくれる気がしたんだ。
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