Story

□ジンクス
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私は私の中だけのジンクスを持っている。

誰にも内緒の、特別なジンクスだ。

あまりにも自虐的なやり方で、それでいてどこかポジティブな考え方から成り立つそれは、私を何度も救ってきたと思う。


それはこんなジンクス。



不安を前にした時、極端に苦しい悲しい結末を想像すれば意外と物事は上手い方向に転がる・もしくは落ち着く、という法則。


例えばこうだ。

何かの大事な試験があったとする。
結果待ちの間、『ああきっと全然駄目だ』と思い込む。
追試を受けることになり、それでも駄目で単位を落とし、進学・就職に大影響。
もうきっとロクな人生は送れない。
私の被害妄想はそこまで進む。

しかし結果は思った以上に良好。
ああよかった、助かったと安心する。


そう、ポイントは自滅的な妄想だ。



告白をする前に、『絶対フラれる』と散々事前に妄想して落ち込んでおく。

就職活動をする前に、一生就職浪人として落ちぶれていく自分を妄想して絶望しておく…………。



期待しない方が割と良い結果が得られるかもしれない、その方が余計嬉しく感じるということは、誰しも一度は思ったことがあるんじゃないだろうか。
逆に期待した分駄目だった時のショックが大きい、とか。


私はそれを信仰のように信じた結果、こうなってしまった。
期待しないどころか『どうせ駄目だ、もう終わり』だと思い込み、勝手に絶望する。


我ながら、自虐的だなあと思う。


でも、なかなか信憑性あるとも思う。


ほら、人生は幸せと辛いことが半分ぐらいずつあるって言うじゃない(言わない?)。

私は強い妄想の中で勝手に『辛さ』を感じる分、現実で幸せを与えられてるんじゃないかって。

だって、私の被害妄想は本当に凄い。

妄想で大号泣。
妄想で夜も眠れず、食も喉を通らず。
妄想でちょっと死にたくなる。
そのくらい本格的に思い込む。


だから実際は良いことずくしでも、精神的に『辛さ』と『幸せ』両方を半々感じてバランスとってるわけ。


私はこのむちゃくちゃな論理を信じて、苦しくても辛くても被害妄想を止めない。
だって現実の幸せの方が大事だし。
やっぱり辛く考えてほうが、結局得た幸せを大きく感じるのは事実だし。


まあ難しいのが、こういうジンクスだからと希望を持ってもいけないというところ。
あくまでもジンクスだということを考えず、『絶対駄目だ』とかなり本気で思い込まなきゃいけない。

私のように元から被害妄想が強くなくては出来ない所業だ(何を偉そうに)。



と、まあ。


私はこの私だけのジンクスを実行し続け、素敵な恋人も楽しい仕事も手に入れた。


人生上々。


しかし調子に乗ってはいけない。

私のこの幸せは、病的な被害妄想の上で成り立っているのだから。

私は日々、悲しい妄想を繰り返さなくてはならないのだ。




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