Story

□隣のロボ先生
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子供の頃、担任の先生が大好きで。
大人になったら子供が好きになって。
小学校の先生になろうと決めた。


大学を卒業して、教師になる資格も得て、地元の県の採用試験にも合格した。
でもそれに受かっただけでは小学校に勤められるわけではなくて、少子化の一方を辿る田舎では学校に招き入れられるのはなかなか難しい。
すぐに学校の先生になれなかった私は、先輩の紹介で塾の講師をやっていたのだけど…………


夏に入る頃、ラッキーなことに公立の小学校からお呼びがかかった。
新婚の女の先生が妊娠し、産休に入ることになったらしい。
私はその間の臨時教師として、採用されたのだ。

というわけで、私は2学期から、念願の小学校の先生として働いている。

のびのびとした私の性格上、厳格な私立の学校ではとうていやっていけなかっただろう。
ありがたいことに私が勤めることになった小学校は、校風がそうなのか校長の方針なのか先生も生徒も自由な雰囲気の中やっている。

おかげで車の運転が苦手な私は、基本的に自転車通学。
それに合わせていつもラフな服装だが、怒られないし、他の先生もそんな感じ。
文句を言うような父兄もいないらしいので、普段からスポーティースタイルの私にはとても助かる。


今日の私は、白いTシャツに緑の七分袖のパーカー、黒いストレッチパンツで登校。
駐車場の隅に自転車を停めて、早足で昇降口に向かう。

すると上の方から『ミヨちゃんせんせーっ』と、私を呼ぶ子供の声がした。
見上げれば、私が担任をしている4年2組の教室の窓から女子生徒が『おはようございまーす』と手を振っている。



「おはよーっ! 早いねえ!」

「ミヨちゃんせんせーが遅いんだよー!」

「あはは、ちょっと寝坊しちゃった。」

「もー、急いで急いで!」



産休に入った先生の代わりに担任になってひと月と半だが、生徒達はみんな素直ないい子で、もう仲良くやれている。
私があまり大人っぽくないのもあって、若干ナメられているような気がしないでもないが、まあ今はまだ仕方が無いかな、と思うことにした。

すれ違う生徒達に挨拶しながら、職員室に向かう。
ドアの前で乱れた前髪を少し直して、元気良く挨拶をしながら職員室に足を踏み入れた。



「おはようございまーす!」

「あ、おはようございます。 齊藤先生、今日も元気ですねー。」

「それだけが取り柄なんで!」



挨拶を返してくれた西島先生は少し年配の女の先生。
優しくて、明るくて、私が昔大好きだった担任の先生に雰囲気が似てる。



「もう子供達ともすっかり打ち解けたみたいね。」

「あ、さっきの聞こえました?」

「元気な声だったもの。」

「いやー、みんないい子だし、今のところおっきな問題もないし、ホッとしてます。」

「そう、よかった。 困ったことがあったらいつでも相談してね。」

「はい! ありがとうございます!」



この通り、職場の上司にも恵まれ、私のスタートしたばかりの教師人生は順風満帆。

いじめやら、学級崩壊やら、不登校やら、モンスターペアレンツやら、暗い話題でずいぶんメディアに脅されながらここまで来てしまったけれど、この学校は嘘みたいに平和だ。

まあ、でも、悩みが全く無いかと聞かれたら、そういうわけでもなく…………


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