本編

□第二話「黒翼の賢者」
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「〜というようにして、木の実拾いに山へ入り、道に迷ってしまった僕は、無事に家へ帰ることができたんですよ。」
世界暦1617年、秋。
火の島。この世界唯一の魔法使い輩出機関、「ルビファン魔法技術学校」の学生寮の談話室。
そこで、肩程まで伸びる豊かな緑色の髪を下ろした少年が語っていた。
「へぇ。その男の子が、九年前、五歳だったセンパイなんだ?」
「まぁ、そういうことですね。」
少年の前には、紫色の髪の少女がいた。
少年を「センパイ」と呼ぶ彼女は、明らかに少年よりも年上だ。
「それより、ロディー、僕のことは『イオ』でいいですよ。あなたの方が年上でしょう?」
少年―イオは、少女―ロディーに笑いかける。
ロディーはその言葉に肩の力を抜くが、苦笑いを浮かべて答える。
「あ、いやぁ、そうなんだけどぉ…。あたし、去年ここ入ったばっかだし、生まれたときからこの学校で魔法に触れてきたイオさんは、やっぱセンパイだよ。」
そう、イオは、この魔法学校の学校長で、同時にここ火の島の村長でもある男の息子で、生まれたときからこの学校で育ってきた優等生なのだった。
「センパイはすごいよ。その歳でもう中級だし。そこらの大人にも負けないでしょうね。」
ここの生徒は個々の実力で三つの級―上級、中級、初級―に分けられ、それに対応した部屋を与えられる。
「そんなことはないですよ。…じゃあ、そろそろ部屋へ戻ります。また。」
「は〜い。また、この国での話聞かせてくださいね〜。」
イオは、謙遜してから、静かに自室へ戻る。
ロディーに見送られながら、彼は静かな笑みを浮かべた。
「謙遜」したが、内心彼は喜んでいたのだ。
ロディーの言うとおり、下手な大人より、よっぽど自分のほうが魔法において優れている自信があった。
まだ若すぎるから、上級にはなれないというだけで。
でも、まだまだだ。
かつて自分を助けてくれた魔法使いのようになる、それが彼の目標だった。
「今は、もう二十歳前くらいになってるのかな?」



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