本編

□第二話「黒翼の賢者」
2ページ/38ページ


物語の始まりは、その山の中に、一人の幼児が迷い込んだところからだ。
「…こわくなんかない、こわくなんかないんだ…。」
緑色の髪を伸ばし、それを後ろで一つに束ねている幼年の男の子が、木々が茂る山の中を、べそをかきながら一人で歩いている。
「こわくなんか…。やっぱりこわいよ〜。」
もう山に入ってから四時間ほど経過している。山の日は早い。すでに辺りは暗くなってしまった。
「どうしよう…。」
辺りを見回しても、見えるのは山の木々のみ。
「だ…だれか〜!」
男の子が叫ぶと…
ガサッと、近くの茂みから音がした。
「な…なに…?」
男の子がその音に足を止めると…
「わぁ!」
突然茂みからナニかが飛び出し、男の子に襲い掛かる。
「わ〜っ!!」
ナニかの牙が、男の子をとらえようとしたその瞬間!
「――っ!!」
意味のよくわからない不思議な言葉が聞こえ、そのナニかが切り傷を作り血を散らせながら吹き飛ばされた。
返り血が、男の子の肌を汚す。
「あ…。」
男の子が恐怖に体を震わせる中…ナニかは目に見えないなにかにまた切り刻まれると、動かなくなり、やがて消滅した。
「やっと見つけた。」
後ろから、そのナニかを倒したのだろう者の声がする。
恐怖で気を失いそうになる男の子が、月明かりのなかに見たのは…。
十歳児程の自分より少し大きい背丈の体と…その背に付いた、黒い、大きな翼だった。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ