本編

□一章「覚醒」
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 しかし、その彼女の優しさは・・・所詮ハリボテだったのだ。
月の名が、一つ移り変わったある日、朔弥がエミリにかまってもらいたくて部屋に行くと…彼女は泣いていた。
「……美夜…」
その悲しげな声に、朔弥は居てもたってもいられずそっと彼女に近寄り…
「エミリ…?」
手を触れた。すると、
「触らないでよ!」
その小さな手は、無残にも振り払われた。
「なんで、なんで美夜は死んでしまったのに、あなたが生きているの?なんで!みんな、あなたのせいよ。美夜は、あなたのせいで死んだのよ!」
「え……」
美夜というのが誰のことなのか、理解するのに時間がかかった。しかし、それが死んだ母の名前だということに気づくと、朔弥は目の前が真っ暗になった。
「う…うそ…。母様は、病気で亡くなったって…。」
「そんなの、みんながあなたを傷つけないようにするために言った、うそに決まっているでしょ。」
幼い朔弥の胸に、この言葉は深く突き刺さった。
それは、新月の夜。巧夜と朔弥の誕生日、そして同時に・・・美夜の命日でもあった日の出来事。

光月 朔弥・巧夜 五歳


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