五つの秘宝

□風の巻
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一話 掟


 飛翔百三十五年、夏。
 この海の北東にあり、最東端でもある島。清々しい北東の風が流れることから、「風の島」と呼ばれている。
 その風の島にある深い森。そこには、小さな小さな国がある。国名は「ウィドリーク」。物語は、そこから始まる。



 東の海から日が出始める頃、一軒の家に新しい生命が誕生した。
「男の子だ。よく頑張ったな。」
産声と共に男の子が誕生し、父親であろう男はうれしそうだった。
しかし、
「・・・これは・・・・・・。村長・・・いえ、アスタさん。お子さんはどうやら、双子のようです。」
出産に立ち会っている女性の言葉に、彼は表情を変えた。
「なんだって?!・・・そんな・・・・・・」
「どういたしましょう?」
「・・・それは、間違いないのか?」
「はい。まもなく、二人目のお坊ちゃまもお生まれになるでしょう。」

 この国には、一つの掟がある。
「双子の兄弟が生まれた場合、兄は赤子のうちにその命を絶たねばならない。」
信じがたいものだが、双子の誕生は災いの前触れである。男児の双子は、兄が闇、弟が光を司る、とされているのだ。
そのような掟が、何故あるのか、いつからあるのか、それを知るものは今ではほとんどいない。
ただ掟のみが残されているだけ。

 しかし、それでも。掟は【掟】。村の長である彼が自ら、それを破るわけにはいかない。
「まさか、本当に双子が生まれることがあるなんて・・・・・・。私が知る限り、今まで一度もなかったのに・・・。」


 村の奥の家に、二つ目の産声が響いた。
「そんな・・・二人とも、私たちのかわいい子供たちなんですよ。捨てるだなんて・・・・・・。そんなこと、できません。」
女の、悲愴な声が聞こえる。
「すまない。しかし、村のためなんだ。・・・本当は、親の手で・・・私たちの手で殺さなければならない。だが、そんなことは・・・できるわけがない。だから、せめて・・・・・・。頼む、分かってくれ。」
努めて冷静に答える男の声も、感情を押し殺した・・・とても辛く、悲しいものだった。




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