本編

□八章「日進月歩」
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八章 日進月歩

魔界暦二三六三年(光明二年) 碧樹の月(晩春)
 まだ日が上がりきらない早朝。
光月家の所有する月の森。
今日も朔弥は、日々の鍛練のためにそこへ来ていた。
いつものように準備運動代わりにここまで走ってきたらしく、頬は赤みを帯びている。
朔弥は辺りを一通り見回すと…
「お願いがあります。」
自分の他に人影の見えない森、特別大きくはない声でそう言った。
しばらく、その場を静寂が支配する。
その間、朔弥は何も言わずただ一点を見つめていた。
すると…
「ったくよぉ、何の用があるってぇんだ。」
誰もいないはずの茂みから、声がした。
そして…朔弥の丁度真後ろの茂みから現われたのは、一人の男。
「初めまして…に、なるんですかね?」
朔弥はいきなりの声に驚くこともなく振り返り、平然と挨拶をする。
「一応、顔を会わすのは初めてじゃないぜぃ。あん時は、お前ぇは気ぃ失ってたけどなぁ。」
「あぁ…、その節はお世話になりました。」
「…ホント、無駄に大人びてんよなぁ。」
「ある意味職業病ですよ。」
朔弥は自嘲気味に嘲笑う。
そんな朔弥を、男は少し切なげな目をして見ていた。


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