本編

□二章「光と影」
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  二章 光と影


魔界暦二三六一年(和羅(かずら)百三三年) 白神の月(秋)
 魔のものたちがすむ世界にも、学びの場所はある。
彼はこの初等学校の第六学年だった。
「おはようございます。光月(こうづき)先輩。」
朝、彼が登校していく横を、後輩が挨拶をしながら走り去っていく。
「光月さん、おはよ。」
『光月さん』のクラスメートの少女が、彼に挨拶する。
彼女が、『光月さん』と親しいという話は聞いたことはない。
そもそも、『光月さん』に親しい友人は居ないのだが・・・。
しかし少女は、挨拶を返さなかった彼に気にする様子もなく(おそらく、いつものことなのだろう。)、言葉を続ける。
「ねぇねぇ、今日は・・・その・・・巧夜(たくや)様は?」
顔を赤らめて言ったその言葉に、彼は察した。
つまり、最初から聞きたいのはこのことだったのだ。
「『巧夜』は、今日は仕事だ。」
「そうなの・・・。残念ね。でも、やっぱりすばらしいわ、巧夜様は。あたしたちと同じ歳なのに、もう立派にお仕事をなさっていらっしゃるのですから。」
「・・・・・・」
「しかも、国王様の下で、お父上と共にお役に立っているんだもの、さすが、光月家の方は違いますね」
反応を示さない彼を気にせず喋り続ける少女。
彼は無表情で言葉を吐き捨てる。
「何が言いたい?」
「あ、ごめんなさい。あなたも、光月の方ですもんね。」
大して気にした風もなく、少女は駆け去っていった。
「・・・・・・オレだって、その内・・・」



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