本編

□一章「覚醒」
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一章  覚醒
 魔界暦二三五七年(和羅(かずら)百二九年) 白翼の月(秋)
 月のみに照らされた広い庭。
そこからは、小さな男の子と一人の男の声。
それから、一定のリズムで響く、金属音が聞こえた。
「よーし、巧夜(たくや)、その調子だぞ。」
仕事を終えて帰ってきた巧真(たくま)が、息子に稽古をつけているのだ。
巧夜は、父に褒めてもらったのに気をよくして、にっこりと微笑んだ。
一方館の窓からは、幼女が二人を眺めていた。
「朔弥(さくや)様 。どうなされたのです?」
エミリがその幼女、朔弥に声をかける。
「エミリ。なんで・・・、なぜ父様は、巧夜とばかり一緒にいるの?私とは、話してくださることさえめったにないのに。」
これは、朔弥にとって切実な悩みだった。
「……朔弥様。旦那様は、お忙しい方なのです。跡継ぎでいらっしゃる、巧夜様のご教育だけで精一杯なのですよ。」
「でも…」
エミリにやさしく諭されても、朔弥は納得できなかった。
「いいではないですか。朔弥様には、私エミリが付いているのですから。」
「……うん。」
父がかまってくれないぶん、朔弥にとってのエミリの存在は大きかった。
彼女の存在だけが、朔弥の心の支えだった。


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