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□ヘタレター
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バサバサと凄まじい音を立てて靴箱から溢れ出した手紙の山、山、山。


「うわぁ〜…漫画みたい」


「なんなん、その感想。彼氏の靴箱からこぉんなぎょーさんラブレター出てきとんねんぞ?」


いくつかの手紙を手に取って見せつけながら呆れたように言う。


「なに笑ってんねん!笑うとこちゃうぞ」


いつまでも変わらない態度のあたしに少し語気を強める謙也にまた笑ってしまう。


「……おまえさ、心配とかせぇへんの?」


「えー、今更?」


「今更ってなんやねん。今更も前更もないやろ」


「前更なんて言葉ないでしょ。今更は今更」


「そんなん分かってんねん!ただの勢いや!ちゅーか俺はそないなこと言うてるんとちゃう!おまえが心配しないのか聞いてんねん!」


「ほほう。つまり、あたしに他の女の子のとこ行っちゃったりしないか〜ってハラハラドキドキして欲しいのかな、謙也くん?」


ニヤリと意地悪く笑って言えば、急に顔を右腕で隠すようにして背ける。

どうしたのかと謙也の顔を覗きこもうとした瞬間、空いていた左腕でそれを制された。


「惚れたヤツに、そんな風に心配して欲しいって思って何が悪いんや」


どうやら右腕を顔に持ってきたのは照れて赤くなった顔を隠すためだったようで。
半ばヤケクソ気味に放たれた言葉に勢いはなく、思わず声に出して笑う。


「笑うなって!」


ごめんごめん、そう言い笑いを無理やり止めて、謙也にしっかりと向き合う。

今度は少し真剣に。


「付き合い初めの頃とかはさ、あたし毎日心配ばっかしてたんだよ」


「はぁ?嘘やん。初めっから笑い飛ばしてたやろ」


「あんなの強がりだよ。心の中、真っ黒だった」


なんであたし以外の女の子に笑いかけてるのとか
そんなベタベタ触らせないでとか
あたしが彼女でしょとか

真っ黒すぎて自分が嫌になったくらい。


「でも、そういうときに必ず謙也は言ってくれたから」


「俺が?なんて?」


肯定の意味で笑って頷いてから続ける。


「好きだって。あたしが世界で一番だって」


その度にとびっきりの笑顔で言ってくれた。
それだけで、いつも黒い感情が全部どこかに飛んでいくの。


「だから、あたしに心配なんてないんだよ」


言い終わった後は、謙也に向けてにっこりと笑顔を見せる。


「…おまえにはホンマ参るわ。ちゅーか敵わん」


どこか呆れたような、でもちょっと嬉しそうな表情の謙也にまた笑って。


そしたら、あなたも笑って言うの。

あたしにとって
どんなラブレターよりも
あまく
とろけるような
セリフを。







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