Treasure
□不器用なとこも大好きだから
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ここに来る理由なんて、たった一つしかないのに。
「もちろん、新一に会いたくて。」
自分でも、自然にこんな笑顔ができるのか、と思うほどの満面の笑みで新一の質問に答える。
いつもは仕事柄ポーカーフェイスを保っているが、新一の前ではできるだけありのままの俺を表現する。
前に、新一の前でもいつもの癖でポーカーフェイスをしていたら、
『それ、嫌だ。いくら仕事柄仕方がないとは言え、俺の前だけでは、本当の、“黒羽快斗”の姿で居ろ。』
と、拗ねた様な顔で言われた。
(あ〜…あの時の新一も、すんげえ可愛かったなあ…。)
その時のことを思い出して、思わずニヤけそうになる。さすがにニヤけるとまずいので、そこはなんとか抑える。
「…別に、どうせ後で会う予定があんだから、わざわざ学校まで迎えに来なくてもよかっただろ。」
わざと憎まれ口をたたく新一。憎まれ口をたたいた後、ちょっと後悔した様な、申し訳なさそうな顔をすることを、新一本人は気付いているだろうか?きっと、周りも、本人さえも気付いていない。俺だけが気付くことができる、微妙な表情の変化。それを知っているから、なおいっそう新一が愛おしくてたまらない。
「そうなんだけどさ、新一にどうしても早く会いたくて、つい来ちゃった。」
「…バーロ。」
新一、耳を赤くしながら言っても、可愛いだけだよ。
思わずそんな言葉が喉元まで出てきたが、そんなことを言ったら、いっそう恥ずかしがって、最悪一時口を聞いてくれなくなる可能性があるので、あえて言わない。
「うん。俺、新一バカだから。」
「…知らね。置いてくぞ。」
そう言って俺に背を向けると、照れていることを表すかのように、いつもよりちょっと早めの歩調で歩き出す。