text.連載
□心も体もぽっかぽか
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「温泉行かねぇ?」
事の発端はこの一言。
○心も体もぽっかぽか○
冬休み。特にやることもなく、本来なら宿題や受験勉強などといった中学生にはなかなか忙しい時期。
ヒバリはというと、暇つぶしとでも言わんばかりに地元の不良とのケンカ三昧。というよりむしろ一方的すぎてただのいじめともとれるだろう。
そんなヒバリの前に現れた、とてもじゃないが不良と呼ぶには愛嬌のありすぎるこの男。…山本武である。
「…何か用?」
「ははっ、ヒバリ、冬休みまで学ラン着てんのな。」
質問を無視されたことに少しいらつきを覚えたが、
「実はちょっとヒバリに話があってさ」
今まさに殴ろうとトンファーを握り締めた瞬間、話を始める山本。仕方なくトンファーをしまい聞いてやることにした。
「……で?冬休みまで何の用?」
ぽりぽりと困ったような笑いをうかべながらばつが悪そうに山本が答える。
「…えっと、さ。」
「…早く言ってくれない?寒いんだけど」
さすがに動きやすいとはいえ、真冬にシャツと学ランだけで外に出てきたのは失敗だったようだ。
ケンカにより少しはあったまっていた体が、冷たい冬の空気によって根こそぎ熱を奪われていく。
ヒバリの肩が寒さからかカタカタと震える。それに気づいた山本が慌てて自分の上着をかぶせた。
「ヒバリ、冷え性なのか?」
少し驚きをこめた声で聞いてくる。
「…そう思うならさっさと用事すませてよ…」
ブカブカの上着を遠慮なしに羽織る。鼻をかすめる山本のにおい。このにおいに安心感を覚えるのはなぜだろうか。
「でも、ヒバリが冷え性ならちょうど良かった。あのさヒバリ、」
にこっと嬉しそうに笑ってくる。どうやら上着を拒否されなくて安心したらしい。
「オレと温泉行かねぇ?」
無意識に山本を蹴っていたことに気づくのは、この数秒後のこと。