ボクとキミの夏の空

□笑顔の理由(わけ)
2ページ/5ページ



昔から


あの子は『良い子』だった気がする…






◇◇◇

「‥‥あんた、最近早起きなのね」

私の言葉に、パンをくわえたまま固まった。

目の前で朝食を食べているこいつ。
私の弟、山内空。
姉の私が言うのも難だけど…割と出来た弟だと思う。
小さい頃から我が儘も言わず、ニコニコと笑って、私の隣にいたのを今でも覚えている…。
特に、目立つ特技(もの)もないけれど、人一倍、周りから好かれる子だった。
現に、この子がイジメられる所を見たことがないし、悪い噂も聞いたことがない。
ある意味…否の打ち所がない子…なんだけど、一つだけ上げるとすれば『朝に弱い』という所。つまり、早起きが苦手。
そんなこの子が、近頃、朝起きるのが早い。
私は仕事があるから、早く起きるにしても…この子の学校はまだ校門が開かない時間帯だし…家からなら、十五分前に出れば余裕で着けるはず。
なのに‥‥‥こんなに朝早く起きて、どこに行っているのか…。

「…何か、用事でもあるの…?」

私の言葉に、あからさまにビクッと肩を震わせて、視線を逸らした。

「…べっ‥別に〜‥」

「‥‥‥‥‥」

‥‥‥怪しい。
朝に弱いのに、何故そんなに早く起きるのか。
…わざわざ前日に、目覚ましをかけて。

私が疑うような視線を向けていると、無理やりパンを口に入れ牛乳で流し込み、『ごちそうさま!』と言って台所から出ていく…。
その慌てた後ろ姿を見送って、ふぅ…と軽くため息をついた。

「…ま、いっか」

最近、早起きをする理由はわからない。けれど、それは苦痛なものじゃなくて…寧ろ、楽しそうだから。
あの子が楽しそうに笑う姿なんて見慣れているはずなのに…初めて見るような感じがするのは何故だろう。

まぁ、何にせよ…。

「…空が、楽しそうならいいわ」

あの笑顔が一体何(誰)に向けられているのか気になる気がするけれど‥‥‥暫くは、見守っていることにしよう。






私が、笑顔の理由を知るのまで、もう少し…?


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ