ボクとキミの夏の空

□無表情ロボット
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兄貴はいつも無表情で


感情が無いのだと思ってた…






◇◇◇

昔、学校で仲の悪い男子に『お前の兄ちゃんは、ロボットだ』と言われた時。つい、

「…知ってる」

と応えてしまったのはいつだったか…。
今考えるとおかしい事だが、あの頃の俺は兄貴がロボットなのだと信じてやまなかった。
いつも他人を寄せ付けないような、無表情な顔をしていたのを今でも覚えてる。
でも俺からしてみれば、ほんの数年前まで表情豊かだった兄貴が。突然、あんな風になってしまったことに驚きを隠せなかった。
だから、

『きっと、兄貴はロボットと入れ替えられてしまったんだ!』

と昔の俺は思っていた。
それくらい、劇的な変化だった。

それが…どうだ。

近頃‥‥兄貴の機嫌が凄くいい。もう端から見て異常なくらい、ふわふわ〜としたオーラが流れている…。
それはもう、一昔前の明るかった兄貴のような…いや…むしろ、それ以上だ。

何故だろう…?

非常に喜ばしいこと‥なんだろうけど、まったく持って理由がわからない。
しかも平日だけでなく、休日までこの状態なのだから、よっぽど嬉しいことがあったのか…。或いは、心境の変化か…。
何にせよ…今もその状態が、続いてる…。

チラッと横目で歯を磨いている兄貴を見ると、どこか楽しげで、『やっぱり違うな‥』と改めて思った…。
すると俺の視線に気付いたのか、歯を磨く手をそのままに聞いてくる。

「…?なんだよ‥和泉?」

キョトンとしたその姿に、『本人は気付いてないんだな…』と少しため息をついた。

「‥‥‥何でも無い」

俺の様子に怪訝な目を向けつつも、口を拭いて出て行ってしまった。
暫くして、家のインターホンが鳴る。その直後、二階から慌てて階段を下りる足音が聞こえ、突然消えた。

(…また、転(こ)けたな…)

また、というのは数日前も同じように慌てた足音が聞こえ…突然消えたものだから、不審に思って玄関を覗けば、兄貴が倒れていた…。
二階からわざわざ走ってきて…
一体何をそんなに慌てているのか。

よくよく思い出してみれば、兄貴の様子が変わった頃から家のインターホンが鳴っている気がする…。

「‥‥‥」

あのインターホンの主と何かあったのだろうか…?

答えのない疑問を持ちながら、耳の片隅で家のドアが閉まる音を聞いた…。





俺が、兄貴の変化の理由を知るのは、もう少し先の話…。


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