ボクとキミの夏の空

□すれ違う想い
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こんなに辛いなら、
知らなければよかった…


◇◇◇

「…おはよ」

一言そう言うのが、精一杯だった。
やっとの事で発したその声は、ひどく震えてて…緊張してるのがバレバレだ…。
無視されたらどうしよう、という不安から、まともに彼の瞳を見る事がでかなかった…。
俯いている俺の脇を、東雲くんは何事も無かったかのように通り過ぎた。

(…俺、何やってんだろ…)

あれからずっと避けられてるのに。

‥‥‥あの日の放課後、東雲くんと分かれてから辺りが暗くなるまで、俺は一歩も動けなかった。部活があることも忘れて、ただ呆然とそこに立ち尽くしていた…。
やっと東雲くんと話したのは、あの日から4日過ぎた頃。
前なら返してくれたかもしれない朝の挨拶も、今は俺ばかりが発してるだけの言葉にしか過ぎなかった‥‥。

チャイムが鳴って、先生が教室に入ってきた。
いつもと変わらない授業。
教科書を捲る音、先生の声、黒板に文字を綴るチョークの音でさえ、いつもと変わらないのに。

…なのに。

ほんの数日前と、何でこんなにも違って見えるんだろう‥‥。
東雲くんを見た日から、話しかけたその時から、俺の心はこんなにも変わってしまった…。

前を見上げると見える、黒い髪。
その髪が、近くで見ると意外と茶色が混ざっていることを、知ったのはいつだっただろう。
俺が笑うたび、猫みたいな瞳が僅かに緩むことを知ったのは‥‥いつだった?

(‥‥‥そうだ)

俺は、そうやって東雲くんを知ることが嬉しくて、もっと知りたくて、俺の傍で俺と一緒に、笑っていてほしかったんだ‥‥。

東雲くんは、いま何を考えてるんだろう…。
俺が、いつまでも構ってくるから、怒ってるかな?
…呆れてるかな?

たぶん…

それは単なる俺の願望で、実際は俺の事なんて、もう興味無いんだろうけれど‥‥‥。



せめて後一回でもいいから、俺を見てほしい。
あの日の事、冗談じゃなく本気で謝りたいと思うから…。



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