頂き物
□White
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好きな色は?と、聞かれたら。
「ベージュ」
と、答える。
どうしてベージュが好き?と、聞かれたら。
「暖かくて、優しい色だから」
と、答える。
でも、今は違う。
いつからだろう。
好きな色が、ベージュから白になったのは。
それはきっと。
あの日、君が言った一言。
今でも僕の心に残っている、君の言葉―――――。
『White』
その日、僕は朝からドキドキして落ち着かなかった。
正確には昨日から。もっと厳密に言うなら、数日前の約束した瞬間から。
今日、僕は。
初めて手塚と二人っきりで出かける約束をした。
出掛けようと誘ったのは僕。
案外すんなりとOKを出してくれた手塚は、
『で、どこに行くんだ?』
と聞いてきた。
ダメもとで誘った僕にしてみれば、行く場所とかまで決めてなくて…。
『えっと…ラケット!新しいラケット買いたいんだよね。出来ればたくさん種類がある中から選びたいから、規模の大きい店に行きたいんだけど…』
なんてちょっと苦しい理由なんかつけてみる。
『わかった。じゃぁ都心に出た方がいいな』
こちらもあっさり了承。
しかも少し遠出できそうだ。
『うん!そうしよう』
この瞬間から、僕のドキドキは始まったのだ。
たくさんの種類の中から選ぶと言うことは…選択肢が増える分、迷いもそれに比例して増えると言うことで…。
僕は目の前のフレーム達を見て、どれにしようか決めかねていた。
自分の好きなメーカーから選ぶから少しは限定されるんだけど…問題は色だ。
カラーバリエーションがありすぎる。
たくさん種類がある中から選びたいって言ったのは自分なんだけどね。
「どうした、不二」
それまでおとなしく僕のフレーム選びを傍観していた手塚が口をひらいた。
「フレームの種類は決まったんだけど…色、どれにしようかと思って」
元々原色が好きじゃないから、必然的に淡い色合いのフレームに目がいってしまう。
そうすると、ライトブルーとシルバーの2色使いのにするかシルバー1色のにするか…たまには黒もいいかな、でもやっぱりライトブルーとシルバーのにしよう。
と、自己完結したときだった。
「不二、この色はどうだ」
そう言って手塚が僕に手渡したのは白色のフレーム。
「白?でも傷とか汚れとか目立たない?」
「そんな心配はないだろ」
「どうして?」
「不二はラケットを乱暴に扱ったり、落としたりなんかしないだろ」
なんだか、凄い事を言われた気がした。
手塚は物を大切にする人だ。
そんな彼が言うからこそ、意味があって。それと同時に自分のことをそう思っていてくれたことが嬉しかった。
「それに」
「…それに?」
「不二には、白が似合う」
「…手塚…」
今…似合うって…言った?
「すまない、俺の個人的な感想だ。気にしないでくれ」
気にしないでくれって…そんなの無理だよ。
今の言葉で、ドキドキが一気にぶり返した。
さっきまで、フレーム選びに真剣で忘れてたけど、今日は手塚と2人きり、初めてのお出かけなのだ。
「余計に迷わせてしまったか」
僕が黙っているのを迷っていると勘違いしたらしい。それを否定するために僕は首を左右に振った。
「違うよ手塚、その逆」
「逆?」
「これにする」
「いいのか」
「うん。白って持ってないし」
なにより、君が選んでくれて僕に似合うって言ってくれたから。
「ガット張り、頼んでくるね」
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