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□変わらないものひとつ
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「…孝介」
「…」
「孝介!!返事してよ!!」
「…」

ちっと舌打ちを打つ。
あ、ごめん。喧嘩してないよ。修羅場でもなんでもないよ。ただ孝ちゃんが起きないだけなの。このお寝んぼさんめ!

そんな、眠り姫ならぬ眠り王子のベッドによっこらせと腰をかけた。薄暗い部屋で、充電器に置かれた孝介の携帯だけがぴっかーんと赤い光を点している。ごそり、と孝介が動いた。起きない。よし、こうなったら。

「布団の中入っちゃうぞこんにゃろう」

答えを聞かぬ間におっじゃまっしまーすと叫んで布団を捲った。我ながら、元気が宜しい。

「…うるせーな」
「あ、起きた」
「えってか、ちょ、おま何してんだよ、わ、入ってくんなってばおい!」
「あたしにそんな口利いていいと思ってんですか孝介くん。ドーゾ」
「ドーゾじゃねえよこっちはねみーんだよ。っておい、それ以上近付くなよ、絶対だかんな!」

密かに布団の中で行われていた蹴りという反撃が止んだかと思ったら、このベッドの中で出来る限り離れようと、孝介はあたしがいるのと反対側にぴったりくっついて、こっちに背中向けてきやがったちっくしょう。
背中で音がしないことにほっとするのが本来当たり前なのだが、流石は幼なじみ。あたしが動かない方が可笑しいと分かっていたらしい、ちらりとあたしの様子を伺った。でも。

「ふふん、そんなにあ た し か ら来てほしいのかーそうかそうかー」
「ちっげーよバカ」

そういう作戦。ごめんね孝介あたしの方が一枚上手だわっはっは!

「…つーかどっから入ってきたんだよ。もう12時前だぞ」
「孝介の兄ちゃんが、よっ久しぶりーって」
「あンのくそ兄貴」
「流石だねお兄ちゃん。相変わらずいい男」
「何しに来たんだよ」

いい男に関しては突っ込んでくれない。孝ちゃんも相変わらずいい性格してる。

「よくぞ聞いてくれました!!…聞きたい?」
「お前が言いたいんだろ」
「そうとも言うー。あ、でもあと1分待って」

チックンタックン、チックンタックン。秒針が暗い部屋に響く。そういえば昔、ちーくんとたーくんっていう双子いたなあ。惜しい、ちょっと掠ってる。今更だけど、あだ名、ちっくんとたっくんに変えちゃえ。あれ、本名何だっけ。まあいいや。


「…さん、にぃ、いち、」

飛び付き攻撃!!

「な、んっ」
「孝ちゃん誕生日おめでとう!またひとつおっさんに近付いたね」
「…それは余計だろ」
「あたしに何か言うことないのーほらほら」

手をひらひらさせてみせる。ぱしって払われた。地味に痛いよ孝介。

「何すんのさ」
「…とりあえずありがとな」
「とりあえずは余計ですぅ」
「はいはい」
「ハイは一回」
「うっす」

もー、と口に出してみる。

「俺、もう寝るから。早く帰れよ」

そう言って孝介は頭まで布団を被ってしまった。さっき兄ちゃんが言ってたよ。孝介が顔隠すときは大抵照れ隠しだって。はっはーん。

「照れ屋さん」
「うるせー」



こっちに向けられた背中は、改めて意識すると前より確実に広くなっている。年取って、背も大きくなって、声だって低くなってくけど、基本的な孝ちゃんは変わらない。あたしの気持ちだって、きっと、ずっと。




変わらないものとつ

09.11.29 happy birthday!

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