◇ジロ跡text【2】◇

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「ジロー寝ンならこっち‥」
とは言っても、既に寝息が繰り出されている今となっては、眠りに就くのが異様に素早いコイツが反応を示すはずもなく、慈郎は窓が全開に開いているその傍で体を横たえ眠ってしまった。
室内に収まっているならばともかく、片脚などはもうテラスにハミ出てしまっているのを見てしまっては放っておけないじゃないか。
「風邪引くぞ。オイ、こら、ジロー」
5月とはいえまだまだ肌寒い風も吹くのだから、慈郎のように薄出の衣服ではさすがに冷えてしまうだろう。
慈郎は割方体温は高いほうであるが、そういう問題ではない。
しかし、声を掛けても全く反応を示さないところを見ると本当にもう遅かったらしい。
「ったく」
跡部はひとつ、誰に聞かせるでもなく溜息を吐くと、手にした文庫本に栞を挟み放ると立ち上がった。
初夏。
世は所謂ゴールデンウィークに突入しており、今日なども部活もなく予定は入れていなかったため、家にやってきた慈郎とともに何をするともなく過ごしていた。
いや、本当は知っている。
5日。今日は慈郎のバースディなのだということを。

それを知ったのは全くの偶然のことだったので、慈郎としては知られていないとでも思っているのだろう。
誕生日だということは確かだった。
この確信は、慈郎が落とす会話の端々から容易に推察ができ、そこから更に誘導していった回答からも、答えは只ひとつのことを示していたからだ。
両腕を枕として眠っている慈郎にブランケットを掛けてやり、跡部はその傍に腰掛けた。
雲間から陽さえ射せば暑いものを、5月の風に押されて流動する雲に隠されれば一気に冷えた空気と成りかわる。そんな風なものだから、やっぱり長時間さらされていたら風邪のひとつでも引き込むかもしれない。慈郎を運ぶか、窓を閉めるかどうするか。そんなの決まっている。飛び出た脚を仕舞うまで。そう判断した跡部は、ともかく慈郎の片脚を引っ張って何とか中へと引き入れると僅かに乱れたブランケットを掛け直したが、ふと、1分と経たない過去と、今現在の慈郎の表情(かお)に相違点を発見した。
何時でも何処でもよく眠る慈郎と、何故だか慈郎の眠っている場面に遭遇することの多い跡部なので、跡部のほうでも、又慈郎のほうでもこういった状況はお手のものだ。増してや互いに確信を持って試しているものだから、どちらに於いてもタチが悪いといえる。
「何だよジロー起きてんじゃねーか。いつからだ、アン?…起きてるってわかった理由当ててやろうか」
「……ハイ、今回は、くすぐったくて笑っちゃったの見られたからだと思いマース‥。…で、正解?」
「当たり、だ」
「‥だって、……」
こんなことは日常茶飯事なもので、怒りはしないが、一体何なんだといった心境は否めない。
そういう気持ちを察してか、慈郎は先刻からしきりにバツの悪そうな顔をしていた。そんな慈郎に、ヒマならばこんな騙し合いよりも、もっとストレートな表現方法があるだろうにと言ってやりたかった。そう、自分ならばそういうシグナルを感受するにも長けていると自負しているからだ。
「まあ‥俺も、わかってて放って置いたのだから、お相子だな」
小さく呟くと、慈郎が何だろうかと顔を上げた。
空かさずその頬を両手でもって掴み上げ、丁度良い角度にまで引き上げてから唖然としている彼に向かって囁いた。
「テニスするか?それとも一緒に眠るか?今日だけは言うこと聞いてやるよ‥…誕生日なんだろ?」
「あ‥たりだし、…何で知ってるかとかはもう聞かねえけど‥」
「けど?」
両頬に赤味が差しているところが、酷く満足だ。
それに、こういうときの慈郎はとても素直なのだから。
「‥ゆーこと聞ーてくれるって…?」
「ああ何でも言え」
「…じゃあ、もっと、もっと構って」
こういうところが、好きだ、と思う。


(数分後)


「跡部俺のこと好き?」
ハア?寝惚けてンのか。
とでも言いたそうなのがわかった。
しかし、慈郎としては眠いどころか…といった心境である。
何たって、跡部が公明正大に構ってくれると誓ってくれた。こんなことなど滅多にない。それも、自分から強いたわけでもなく跡部から。…こんな面白い状況、逃す手は、ない。
「んじゃあ、2托にしよ。好きか、嫌いかで答えてみ?」
「2托なら、‥好き、だな。…その2托ならな」
こういった色恋事に於いての強気な跡部ならば、あるキッカケを逃さずに、それを強引に掴み取れば直ぐに陥落できることはわかってた。
「つぎ。これも2托ね」
跡部の視線が僅かながら逸らされた。
「【好き】か、【べつに好きとか嫌いとかそんなんじゃねーヨ】…どっち」
ウンザリしたような顔をする跡部が面白くて、跡部の傍で延々と試していたらそんな状況にブチギレたのかな。それを聞いた自分がどういった反応をしたかだとか、そんなのはもうハッキリ言って覚えてない。努めて冷静に、振り返ってみれば、こんなことを言われたわけだ。

『どっちでもねえ、バッカじゃねえの。答えは、”あいしてる”…っだ』

ああやっぱり跡部が、跡部じゃなくちゃダメだって心から、そう思った。


END.
「like-likes,i love U!」
happy birthday dear jiroh!
20080430
Thank you For Your Reading!



御年は、いつになく早めにお祝いができてうれしいです。
健やかに . . . ★

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