◇ジロ跡text【2】◇

□The world of “King of Hearts”
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「きんぐ‥」

ゆったりと投げた両の腕。
そこから触れた先、着衣の端から感触を確かめ沿わせた指は、やがて、太陽の元へと辿り着く。
「きんぐ」
王たる彼が、視線を送る先には小気味の良い旋毛(つむじ)があり、辺りを撫ぜればたちまち陽は昇り、気持ちもやうやう相乗し即ち此れ理なむ。
矢張り皮切りに。
温かな髪束を一梳きすれば、腹の辺りで蠢いていた天辺は近付いて、やがて全貌が晒された。


太陽は変わらずに笑っていた。

陽は大地へ豊潤なる恩(めぐみ)を与える事でしょう。


「もっと?」
「……」
跡部は静かに目を伏せた。
「‥うそだね」
無言を否と取ったのだろう。
朗らかに呟いだ後(のち)、再び、肌に感じた舌先の生温かい触感を追い掛けると、次いで温度の低い指先が何度となく肌のそこ彼処を掠めていった。
先程と同じ様に、顔を伏せ、つまりは王へと天辺晒し、太陽は熱を生み落とすのだ。


触れた部分へ落とされた熱は、燻ぶりながら静かに刻を待つでしょう。

それは、凍て付いた大地の内側に春が生まれ、やがて芽吹くその刻を待つ様によく似ている。


跡部は、次第に移される熱を確かに感じていた。
「きんぐ」
呼び掛けに即されて瞼を開ければ、自らを跨ぐ形で、上に圧し掛かっていた慈郎が体勢を立て直す所。
同時に腰紐に掛かった彼の右手を遮ろうと、無意識に動いた腕を戻した。だが、一瞬の逡巡の後、慈郎の手は直ぐに別の所を掠め、退いて行った。
「ちょっとい?」
絡めている片方の掌はそのままに、足と、手空きの掌(てのひら)で両脚を勢い良く割られればローブの合わせ目がズルリと乱れ、空気に触れた肌が粟立った。
「‥ん、」
今更恥らう仲ではあるまいが、居心地は頗る悪い。
抱かれ慣れている身体は、浅ましくも、慈郎の辿る手順を知っている。これから訪れる快楽に、自然と期待が掛かり、それが酷くもどかしい。
それでも身体の芯に芽吹いたゾワリとした感覚を知られたくはなかった。
引き締まった太腿をなぞり、気まぐれに唇を落としては熱を与えられているが、されるがままの自分はらしくないと心の中で自嘲する。
この様な場面での自分の位置が、いまだに良く、わからないのだ。
優しい仕草で高められていく感覚だとか、熱烈なキスだとか。やけに大人びた表情で笑う時も、逆に子供っぽく強請られた時を思い出すだけで、鼓動の打ち鐘に殺されるとさえ思う。
「……」
当の本人から今、同じ様に愛撫を施されているというのに、先日身体を繋げた時の記憶が生々しく甦り、それによって背筋を駆け抜けた甘い感覚に困惑する。
跡部は知らず、詰めていた息をそっと吐いた。
同じ頃、慈郎の掌が跡部の中心へと伸び、反応を示している辺りを撫ぜ上げる為、弾かれた様に両の脚へ力を入れて反応を晒してしまう。
「あつい……もぉ勃ってるね」
「…‥そ、いうの言うなっていつも‥ってんだろが」
それが的確なだけに、気恥ずかしさも手伝って、この手の言(げん)は苦手だ。
「でもー」
これは今までも何度となく交わした遣り取りであり、正された事がないのだから効果の程はわかっている。それでも言わずにはいられない。
呆れ返っている跡部を余所に、揺るがない手順が繰り返される。跡部自身に絡んだ慈郎の掌がゆっくり上下した。
「…ん…!」
僅かに眉を歪め呼吸を詰めるが、いまだ跡部の意識は浮世を彷徨うていた。慈郎に、脚で固定されている自らの脚が痛いだとか、天井の格子の組方だとか細やかな事がやけに気になっている。情交に消極的だという訳ではなく、寧ろ、早く、意識ごと掻っ攫って欲しいと願う気持ちを自覚していた。
羞恥すら億劫に感じるレベルを知った。
故に、感ずる羞恥心もあるのだ。
「キモチよさそ〜な顔しちゃって……。ホントは聞かなくってもわかんだけどね‥」
笑いを含んだその言葉に、カァッと頬が赤らむのがわかった。
「だっから‥そういう事………っ…」
言葉が続かず、深い溜息を吐くと、居た堪れなくなった状況の打破を図った。
ピクリと動いた掌に慈郎が気が付いた頃には、跡部が腹筋を使い上体を起こす。
「えっ」
体勢の逆転を図り、驚く慈郎を軽やかに無視。
そしてベッドへと押し倒すと、今度は自らが慈郎の体に跨った。
「…っと‥あと…」
「なあ」
畳み掛ける様に囁き掛ける。
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