◇ジロ跡text【2】◇

□ターニングオーバー
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「だいじょうぶ」
「あっちは」
「しめたー」
ベッドの横の大きな出窓。
そこから覗く外の世界はすべて、カーテンで隠してしまった。

遮られて尚薄すらと照らす半月は、雲の棚引きによって明暗をつくる灯りとなる。
その光はひどく仄暗くはあるけれど、瞳の慣れつつある慈郎には、ぼやける輪郭をなぞりながら見つめれば、目線を上げた跡部の双青眼と合い、吸い込まれそうな錯覚に陥れた。

家族が各々の都合で外出をしているこのときに跡部が来たのは全くの偶然であり、ややあって、泊まることになったのもまた、偶然が起因してのこと。

そんなわけで、ここにはふたりを除き誰ひとりすらいないというのに、的確な部分に触れると上がる跡部の仕草が違うことに気がついた。
他人の気配を気にした屋上、体育館の裏路地や生徒会室でのことのように、外で触れ合った、そのときのような落ち着かない心境なのかもしれない。
基本、跡部邸の私室以外の場所での性交に対し、あまりに寛大でない彼を、無理に乗らせたパブリックエリアでのそれは能動的な彼の性格を封じることとなり、ゆえに彼らしかぬ受動の仕草には慈郎は内心目をまるくしたものだ。
だからといって、たとい跡部の許す場で求めたとて、必ずしも慈郎の望む方向へ進むわけではあるまいが、個室が広く壁も厚いあの部屋はめったなことでは外部へ音が洩れる心配はない。
そのため、私室で抱き合うときと その他の場所で抱くときでは反応が違うのだ。
常として派手に喘ぐわけではないけれど、やはり違う。
外での、絞られた声音は、常よりも細く囁くようで甘い響きが目立つため それはそれで慈郎を興奮させる一因となるのだが。
「もーねむくないでしょ?」
「お前のお陰でな‥」
慈郎は、跡部の着ている黒色のシャツを捲くり、しっとりと馴染む肌に唇を寄せ、それによって跳ねた肢体へも指を這わせては愛撫を加えていく。
慈郎の衣服の裾を掴んでいた跡部は、照れ隠しのように浅い吐息を吐き、覆い被さる彼の服の中に、同じく手を差し入れては肌をなぞった。
シャツに阻まれるため、もどかしく背へと回った手に圧され、それは行為を急かされていると悟った慈郎は勢いで目の前に晒される突起の片方へと唇を寄せる。
「…、」
呼吸が、途切れた。
慈郎も跡部に触発され動きを止めた。
誰もいないというのに。
それでも、音を潜めて密やかに。
自然と、辿る手の途(みち)は厳かで、聴こえるか聴こえないかくらいの微細な吐息すら潜めていた。
動けば軋むスプリング。それにすら気を張るように。
「‥、ふっ‥」
堪らずに、着衣と肌の合間を縫い辿ったてのひらが跡部の中心を掠める。緩やかに勃ち上がるそれを揉み込むように動かすと、圧し掛かる、その下の跡部の身体が弾かれて動いた。
「きもちいー?」
「……うっせ‥、ホラ」
故意に目を瞑った跡部が目の前にいるのなら、することは、ひとつだ。
互いの目は慣れている。
ちゅ、と短く離れ音を上げた唇、その後慈郎が小さく息を吐いたころ、跡部は自らの体に被さる彼の髪を掻きあげて、顕になった首元へも口付けた。掻きあげても尚零れ落ちる細い金糸へも触れさせて、しっとりと馴染む肌へと何度も何度も触れるだけのキスを与えていった。
慈郎といえば真っ先に、寝顔かこの金髪か、瞳を輝かせて笑う仕草や柔軟な手首が浮かぶ跡部にとって、そのパーソナルポイントを彼として愛しく思い、愛でたいという衝動が溢れることがつまり愛情だと言うのなら、この行為は外せない。
「今日も跡部がやってくれンの?」
言葉の応酬の端、不意に跡部の瞳に不敵な笑みが宿ったのを見た。
その表情に魅せられた慈郎は瞬間言葉をなくす。
手にある金糸の束を梳き、それを機として上半身を起こした跡部によって、逆に体勢を崩した慈郎は、ベッドシーツと追いやられたタオルケットの上に後ろ手をつき体を支えたが、即座に跡部が肩に手をつき押したため、なす術もなくそのまま仰向けに倒れ込んだ。
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