◇ジロ跡text【2】◇

□考察
2ページ/2ページ

例えば、試験中に声を発することができたなら、目の前で悠々と眠る彼を再びペーパーに向かわせることも可能だろうが、それは跡部といえど躊躇われた。代わりにさり気ない動作で慈郎の椅子に、長い脚を打つけてみるが、呼び覚ますには相応の強さを以って蹴らなければならないようで、試しても、僅かに寝息が途切れるにとどまる。
できることといえば、試験が終わり目を覚ました慈郎の頭を、後ろから叩(はた)くことくらいか。
「数学は、あとでやった方がい〜気がするよ。ちょっと休憩しよーよ」
「‥んとに後でやるんだろうな。ったく、そんなんじゃ望遠鏡もなしだな」
セッティングをした席へと座らせる一連動作には、満天の星が付随していた。
気を引くことでやる気を出させるという方法は、最終的には失敗に終わるとしても、考えうる最良の方法のため、今回もそれに則ってはいるのだ。席を見た瞬間に顔色を変えた慈郎を誘惑した。みるみる内に、慈郎はやる気を漲らせたことで、跡部も彼の前に座り読書を始めたのだ。
「まってまって、やる気でてきた」
薄れたたびに軌道修正を加えなければならないが、修正の仕方、つまり、慈郎の気を引ける事柄は、必ずしもコレだという解がないため難易度はある。
「今日は七夕だもんなぁ、星見たいだろ?」
それは、彼の勉学に対する意欲の度合いから算出した、彼の喜びそうなことでなければならないために難しい。幾度となくこの方式で釣ったためか免疫が付いている慈郎には、ちょっとしたものだと負けてしまう。
テニスへは異常な熱を向ける慈郎には、それは当初は最強の誘因力を誇りはしたが、そのうちに約束を取りつけずとも跡部から誘ってくるとわかったため、逸れた気持ちを戻すには効力を発揮しなくなり使わなくなった。テニスは跡部とてしたいのだから、その点がいけなかった。
「別に、俺は見なくてもいいけど、たまには屋上開けても良いな」
跡部邸の屋上へ行くなど、滅多にない。それだけで、慈郎の意欲は高まった。非日常な冒険的なことが後に控えているとあらば、好奇心が芽生えぬはずがなかった。
「マジで!?屋上っ?」
そう言って、瞳をめいっぱいに輝かせた慈郎は、玩んでいたシャープペンシルを持ち直し、猫背もまた、やや直る。
それを受けて、跡部の視線も再び手元の本へと向いた。そして考える。慈郎が無事に勉学を終えられたらなにをしよう。跡部にとっては久しぶりの休日だった。それだけに慈郎への義も熱を増す。
楽にだけ浸った戒めで引き離されたふたりの知らせる格言に則っているかのような方式に、今は晴れる天を仰ぎ 微笑んだ。

END.
「考察(七夕記念2007)」
20070707

Thank you For Your Reading!
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ