◇ジロ跡text【2】◇

□happy christmas!
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気を利かせたつもりは無い。けれども心の中で建前とした。



「明日、あとべン家行ってい?」
慈郎の訊ねる内容は、慈郎の方へ振り返った後に、耳に残る音から聞き取った。
兎も角も振り返っただけの自分が、しばし押し黙っていたのを如何取ったのか、慈郎は変わらず間延びのした口調で云った。
「あー‥何か用事あるならEーの」


人を気にして居心地が悪い等という体験は全く持って珍しい。
寧ろ、コイツが人を気にして欲しいものだ、と、そんな事をぼんやりと考えていた。
寒空の下、隣に座る慈郎は携帯に耳を傾けている。
時間はわからないが、三十分は優に経っているだろう。

さっきだって、別に、何をするでも無く各々が好きな事をしていたのだから着信に出ようと奴の勝手だ。そう思って俺は、手元の雑誌へと再び目を向けた。
しかし数分後。
嫌でも耳に入る会話に辟易して、部屋を出た。
自室から続くテラスへと、空気を吸いに出ただけだ。只の、気紛れに。
エントランスに程近い木々には青く、白く、輝くイルミネーションが飾られている。
今日はイヴだ。
知らなかった訳では無いが、だから何だ。
特に特別視をする理由も無く、通常通りに部活をこなして過ごす一日で。

テラスの端、柵は酷く冷たい。
「上着、」
くらい、羽織ってくれば良かったと既に凍え始めた口が語散た。
温まっているこの体も、直に冷えてしまうだろう。
慈郎とて、同じ様にメニューをこなし、それから先日交わした口約束の通り家にやって来たのだ。
しんとする夜闇の中、見下ろす街はやはり電飾に縁取られて多彩な色を放っている。電飾が輝く様が好きな慈郎は、毎年この時期になると必ず訪れる。キラキラしている物が好きだと、目を細めてはずっと見詰めているのを見ていた。そう、いつから恒例となっていたのかはもう、思い出せないけれど。
慈郎が家へ来たいと云ったのも、例年あっての事だろう。
あまり深くは考えない様にしていたと云えば、その通り。
慈郎は、自分に取ってよくわからない位置に居たからだ。数ヶ月前までは、只の幼馴染に変わりなかった筈なのに。

「!、……」

肩の辺りに何かが。
何かっつーかこれは、慈郎、だ。思い切り打つかりやがって。
意識を下へ向けると先ず目に飛び込んで来たのは揺れる金髪。金髪は、変わらず通話中である。
部屋に居りゃ良いものを……。
こんな静かな闇の中じゃ相手の特定も容易にできてしまう。居心地は、頗る悪い。
再度移動する気にはならないが、ヒトサマの会話なんざ聞く趣味はねえ、‥のに。

慈郎の言葉に呼応して、スピーカーから漏れる音声は、次第にカン高く鳴り響き それでも偶に口を開く慈郎の間延び具合は変わらずだ。
何時迄続ける気だよ。
「なあ」
小声で。
「え、?」
慈郎は自分にとって、とてつもなく、難しい位置に居た。
戯れの様に抱き付いて来ては、何でも無いと直ぐに離す。目を細めて好きだと囁いた次の瞬間には、冗談だと云って笑うから気に等してはいられない。
しかし腐れど幼馴染。
慈郎が不意に醸し出す雰囲気のチガイが、長年傍に居たこの俺様にわからない筈が無いじゃねえか。だから、あの日不意にされた口付けとその先の行為を甘受した。その理由は。
「お前好き」
瞬時に集まった意識に向かってコクハクを。そうか、ずっと好きだったのか。
認めてしまえば気持ちも軽いものだ。
「お前はどうなんだ」
もう、誤魔化すな。

街は更に光を増した。闇が増したからだ。
「すきだって。‥冗談じゃなくて、ね」
慈郎は満面に笑みを浮かべて甘い声を出した。
「お前、ソレどうしたよ」
「あ‥思わず切っちゃった。…だって、あとべ、スゲーこというんだもん」
終始、申し訳無さそうに断ってはいたけれども、慈郎が誰ぞにアプローチを受けているのに焦れたのかも知れない。
吐く吐息のシルシは真っ白で、これまた夜闇に映えていた。
「まってまって、いつから…?オレ、結構まえからあとべンことすきっつってるケド」
「さあ‥」
「あとでカン違いとかゆわない?」
「ゆわない」
即答をしたのがいけなかったのか、慈郎は納得し難い表情を浮かべていた。
それならば。
俺から贈る口付けで、悟れ。


END.
happy christmas!
20061224

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