◇ジロ跡text【2】◇

□approach
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夜闇に咲いた電飾が消えた。代わりに精巧な造りの門松。そして注連縄が。
正門を彩る諸々にはイチベツをくれてやる。
そうしてオレは、あとべの部屋から一番近い勝手口の扉の前までやって来た。


『ついたよ〜』
自然、目線の先にはあとべの部屋‥がある辺りの外観を。
『ああ、今行く』
ガコン、とドアが開いた音。時刻は0時を過ぎた頃。
ここに来る間にも、たくさんの参拝客を見た。
新年明けましての厄払いの儀。と迄はいかなくても、一年の始まりを厳かに明けたい気持ち、付き合い、何となく。理由は様々だろうが社と名の付くエリアへと、参拝を目的とした人々が列を成して向かっていた。
オレもあとべも同様に向かう筈だった。
『ね、ね、でもやっぱり散歩がてら、見に行ってみる?』
『混んでるじゃねーか。明日で良い…‥って、さっき言ったろ』
笑いを含んだ声が聞こえる。
勿論、あとべが人波を苦手としているのは知っている。でも、あとべが行きたいならと思ったけれど。
『そか、それじゃあオレと、おしゃべりしよう?』
『‥ンだそれ、喋りてえの?』
『うん!』
『変な奴‥』
スピーカーを通して聞こえるあとべの声が、いつになく優しくて、饒舌で。
舞い上がってしまいそうな自分をめいっぱい抑えていた。
こうして約束を取り付けられたのも、あとべの家に行きたいとシツコク云い続けていた賜物だ。
跡部邸を訪れるのはこれで三度目。そのどれもが、ここ最近の事。クリスマス前にも来たっけか。
オレはもう一度、あとべの部屋の辺りに目をやった。木々に阻まれてあんまり見えないんだケド。それに高い塀も邪魔をして、背伸びをしてみないと見えないんだけど。
それでも。
荘厳な邸宅は、夜闇にあっても凛として見えたのだ。
『…ッ…さみいな‥』
『そお、かな…』
確かに今夜は、風も吹いて寒いかもしれない。吐く息も真っ白。意識をして見れば、むき出しの掌は悴んでいた。
手には簡易な注連縄。跡部邸正門にあった様な、それからこの勝手口にある様な紙垂(しで)が張られた一本縄ではなく、リース状の、コンビニとかでも売っているヤツではあるけれど。
『あ、やっぱサムイかもーあとべはやくきて〜』
注連縄に守られた神域の中に入らせて。
それから、間もなくして人の気配。
あとべの気配だ。
閂が外された音が、スピーカーからも聴こえ次の瞬間にはあとべの姿が見えた。
「あとべ!こんばんわー」
「おう」
学校での雰囲気とは少し違う、素のあとべを垣間見れている様で、こうして私服で会うのが好きだった。
招かれるままに、邸宅の敷地に入った。
入り口にまでは来れた筈。
人目を惹くあとべだから、悠長になんてしてらんない。自分の気持ちに気付いてしまった。
これからが、勝負。
だからオレは。
「何、持ってんだお前」
「あー、」
高々と掲げて見せる。買った注連縄、オレの願掛け。
「かわいっしょ?コレ。コンビニで買ったんだ」
「ふーん」
興味なし。そんな感じだね。
オレは、あとべの反応に笑いながら続ける。
「飾らせてね、あとべの部屋」
「別に構わねえけど」
あとべの張る警戒線を越えたオレが新たに張ったバリアーを、誰そが越える事がありませんように。願を掛けて飾ってやる。
あとべ、油断してたら危ないよ。
でも逃さねえ。
「しかしさみいな」
「だね〜!」


ポケットに入れたそのてのひらに、堂々と触れる事が許されるまで。
今はまだ、友達。



END
「approach」
20061231

Thank you For Your Reading!




NOT幼馴染・恋人未満なお話でした★
2007年もよろしくお願いします!

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