◇ジロ跡text【2】◇

□せいくらべ
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「なんで、そんなに おっきくなれたの‥?」
「適度な運動と食事をして、よーく眠ったから」
「それでも、なれなかったらー?」
「お前のように、こういう質問をするようになるんだろうな」

発育速度や成育の領域は、人それぞれだ。
一般的に良しとされる事例を、たとい毎日試したとて、望む結果を臨むに至らぬこともある。

ことの発端は、慈郎の こんな言葉だった。
「オレ、ひゃく、きゅうじゅっセンチ、になりたいんだよね〜」
切れ切れに、ささやくように話すのは、慈郎の意識が半分以上持っていかれている証拠。

190。
「あとべの背ぇはそのままで、オレだけが伸びたらさあ今ンところ190になればいいんだって」
そんな理不尽な。
そう跡部は思った。自分だってまだ発育途上の体である。
いわゆる成長痛だってなきにしもあらず。
だがしかし、これは、いつもの戯言だ。戯言には、それ相応の対応で返すのが最近の跡部の対慈郎話法。
「で、今回の理由は?」
そう言う慈郎に付随する、何らかの理由があるはずだ。
「あとべがいつも、オレを見る視点になってみたいな〜って思ったの。楽しくない?オレを見上げるあとべって」
「そうか〜?…んなにデカくなってみろ、その辺で寝てたら不気味だぞ」
「見っけやすいかもよ?オレのこと」
「探させない努力をしようぜ」
「でもーネムくなっちゃったらも〜ダメなんだもん」
そう言う今の慈郎も、ふらりふらりと眠そうで、間もなく飛んで行ってしまうのは 火を見るよりも明らかだ。
背もたれから体をずらし 身を横たえた慈郎はもう、眠る姿勢を取っている。同じくソファーに座っている跡部は、それを機としてテーブルに散らばる本をひらい上げた。
「あれ、」
2、3冊の本を集めたが、読みかけのものが無い。
視線を這わせれば、それは慈郎の頭の方にあった。床に置かれたそれは、きっと、何かの拍子に落ちてしまったのだろう。
跡部は腰を上げ、目をつむる慈郎の横を通り屈み込んだ。
その気配に慈郎は思わず目を開けた。
「そ、そ。‥そんなかんじ。あとべの顔を見下ろしてぇの。あとべがオレを見るように、ね」
「…で、その感想は?」
「すこぶる良いよ、ぜんぶ見えてEーかんじ」
「ばあか!」
だが、わからないでもない。こうして見上げて見るジローは、常よりもどこか男らしい。
跡部は ふ、と笑うと慈郎の髪に手を差し入れた。柔らかく艶めいた金糸を撫ぜ、優しい手つきで梳いていくと、慈郎はことさらに幸せそうに笑み、吐息を吐いた。
「おやすみ、ジロー」
慈郎が眠りに落つるまで、跡部は髪を撫ぜていた。



健やかに育みを


END.
「せいくらべ」
20070505
Birthday FOR.

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