◇ジロ跡text【2】◇

□ポーカーフェイス
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「あ」

もとより暗い昼下がり。
室内の照明もまるで夜のように灯っていたが、瞬間闇の濃度が上がったかと思えば、光は落ち頼るは自然の明るさのみに相成った。
外の音をほぼシャットアウトするこの室内においても、凄まじき暴風雨の様子はわかるほどに一帯は激しい嵐に包まれている。

雨が降り落つる前にやってきた慈郎は、デスクへ向かう跡部の背中に背を向けて座っていた。
「ねー‥停電。あとべのおもちゃ、切れちゃったねー」
慈郎が操っているのはゲーム機である。テレビへ繋いで遊ぶため、こちらも同様に停電により電源が落ちてしまった。
「お前も同じ状況だろうが。全く‥保存した後で良かったぜ」
そうして一息吐いた跡部は、慈郎の方へと体を向けた。

日中とはいえ、雲に覆われた空は光を阻み雨は一層の闇を生み、やはり作業をするには暗すぎる。
明るくなるのは雷の轟く直前のみに限り、それも一瞬で再び闇が訪れるためなんの足しにもならなかった。

「あとべあとべ」
「あー?」
「あとべがボンヤリしてんのもったいない。オレとあそんでよ」
囁くと、慈郎はサマーカーペットを小走りに過ぎ、跡部の膝へと無遠慮に乗っかった。
同時に跡部は盛大な溜め息を吐いてみせる。
「いやって、ゆわないの?」
「いちいち言わねえとわかんねーのか」
「だって、あとべのカオ、よく見えねえし」
灯りが消え失せば、こんなにも薄暗い。
「ねぇ、ちゅーしてもい?」
返事を聞く前に慈郎が唇を近づけていくと、跡部は慈郎の口を自らのてのひらで塞いだ。
「‥ぶ、」
「なんでそうなるんだよ」
「らって、あめ、らひ、れんききれたったしぃー」
「点いたらパソコンに戻るからな」
「むー…、‥れも、いつ、つうかわかんあいし?」
「‥いや、間もなく復旧すんぜ?」
「ンーらの、……わかんなィりゃん」
「あと三十秒程だ。灯りが点かねえから俺に構うのかよ」
そう言って慈郎の口を塞いでいるてのひらを僅かに外した。
「はッ……、」
「電灯点きゃ、ゲームの続きだってできんだろうが」
「や、ゲームよりあとべだし」
「当たり前だ」
瞬時に引っ込められたが、闇に慣れた慈郎の瞳は、跡部の口端が僅かに動いたのを見逃しはしなかった。
「あとべは」
慈郎も跡部も、状況は同じなのだ。
電灯が点いたならば跡部とて、先の続きの作業ができるわけで。
「‥あと、数秒。俺と遊びてぇなら、それまでにソノ気にさせてみろよ?」
跡部は、言葉を紡ぎながら自分の小賢しさに心内で苦笑をした。
こうして慈郎の気持ちのみを聞き出して、後に行なうであろう行為は決して自らの意思からではないという態度に出るのはズルイと思われるかもしれない。

慈郎の顔が再び近づいてきた頃、自家発電のシステムがいよいよ効力を発揮し、電灯には灯りが燈った。
刹那、跡部の表情を見た慈郎は確信を持つ。
電灯が点こうとも、きっと、跡部はこの腕から離れては行かないだろうことを。


END.
「ポーカーフェイス」
20070610

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じろうがポーカーフェイサー
 

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