◇ジロ跡text【2】◇

□考察
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「おおーっとォ、スリーセブンじゃん。知ってた?」
今期の考査は週を跨いで行なわれた。
せっかくの休暇も台無しだ。そう嘯(うそぶ)くのは、シャープペンシルを握りノートに何言かを書き綴った慈郎だ。
慈郎にとっては、ここ数日の考査期間は 純粋に、授業がなく部活動もないため、帰宅時刻が早まるから喜ばしい期間だと認識をしていた。
更に、常に多忙な跡部にゆとりが生まれると、傍目に見ても そう伺えるため余計に喜ばしいのだ。
「‥知らねえ」
日付けならば、几帳面な跡部のこと。意識をせずとも自らの立ち位置を計るが、慈郎の言うように七が並ぶのを見るには至らなかった。
休日の跡部の朝は、モーニングティーに始まり、諸所多多な大小をこなしてゆく。その中のひとつに新聞へ目を通すことも含まれており、おのずと日付けは目に入る。しかし跡部家の取る新聞は英字版であり、日・月・西暦の順で示されているため気がつかない。
たとい他の事項から気がついたとしても、彼のように、七の並びをめでたく感じるおめでたい頭は持ち合わせていなかった。跡部が感じたことと言えば、今日という日の行事についてだった。そのため、気がつかなかった。
そういった経緯で述べた回答に、目のまえに座る慈郎の猫背がやや伸びた。
「にィ、まるまる なな、なな、なな。ほらね」
自分の文字を見つめ、慈郎は言った。
問いへの回答を記述するその前に、習慣として記した日付の数字の並びに気がついたとき、なんの気なく言葉に乗せた慈郎は早々に勉学への意欲を失っている。
「すごいじゃねえか。ラッキーなジロー、それじゃあ問題も解いてみようぜ」
先ほど乗らせたばかりだというのにもう逸れた。
跡部は、仕方なしに、僅かに逸らしていた意識をもう一度慈郎へと向けた。
「数字ばっか‥」
「次のページは文章題だ、我慢しろよ」
目に見えて、哀愁漂う溜息が聞こえたが跡部は無視をした。慈郎としては、計算問題と文章題という括りに拘る前に、そもそもの意欲がないとのアピールだったのだが伝わらなかったとみえて、自分の発言により、跡部の、慈郎に勉強をさせようとする意欲姿勢がぐんと増したのを見て落胆したのだ。

跡部の綺麗な教科書は、講義が行なわれた部分にのみ折り目が付いている。教科書は綺麗だが、講義を真面目に聴いている彼は、教師の義を理解した上で、自分流にノートへとまとめるため理解度が深い。復習をせずとも考査で平均値を上回る点数を叩き出すなど簡単なことだった。
相反して、毎度目に余る点数を取ってくる慈郎の勉強を見る機会は多かった。彼らの本分は学業だ。勉学の全てを放棄し好きなことだけをして過ごすわけにはいかず、慈郎も、本心としてそれを望んでいるわけではない。学生らしく、勉強のひとつでもしてみようかという気になったときには、まず跡部を頼るのが慈郎流。そして、頼られれば面倒を見てしまうのは跡部の性分であるため、今のような状況が生まれる。だが今回は、慈郎から提案したわけではなかった。跡部邸を訪れたら、セッティングされた席があったというだけだ。そこで思い出した。
「昨日で終わったと思ってたよ〜」
そうだろうと思っていたからこそだ。尚更に、自分は間違っていなかったのだと自信を持たせるには充分だった。
「それが解けねえなら 数学危ねえぞ?」
「う〜〜〜〜‥」
慈郎にとって、数学は苦手な教科ではないが、こう数字やら数式やらが並んでいると、次の瞬間には時の鐘と共に教師の掛け声が聴こえるという具合。つまり眠ってしまうのだ。日頃の跡部の努力の甲斐あって、公式だけは慈郎の頭に入ってはいるが、この場合、テスト時に眠らない方式が書いてある教科書を書き写したほうが、成績の向上には繋がるはずなのだ。
それは跡部もわかっていた。慈郎の気を引いている間に勉学事項を詰め込んで試験に臨ませているが、どうにも毎度、巧くいかない。そう、原因はハッキリとしている。くだんの方式は持続力が薄いのだ。
どれだけ報酬が魅力的だろうと、勉学から意識を逸らす力は強いと見え、いかに鼓舞させたとて忘れてしまう。意識を逸らす力には、大抵睡眠欲も付随していた。ならば、こなしたら好きなだけ眠ればいいと言えばそこまでだ。その時点で眠りこけてしまう。
つまり眠気を越える魅力的なものを用意した上で、定期的に思い出させなければならなかった。
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