◇ジロ跡text【2】◇

□what would U like FOR Christmas?
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12月24日



暖かい毛布に鼻先まで包まれて眠っていた慈郎は、ふと不穏に眉を顰めた。

目元に被さる太陽の強い光線を意識してしまえば、いくら眠り童子と評される慈郎であってもそのまま眠り続けることは難しいのだ。
「ふァ‥」
麗らかな休日の朝。
と、慈郎は思っているだろうが、実際は午前中の時分もとっくに過ぎ、太陽は一等高い位置を越えている。
起こされた原因である部屋のベッド脇の出窓のカーテンは引かれておらず、それを失敗したと思いながら、いまだ睡眠に未練があると見えて慈郎は、光差し込む窓に背を向けた。その途端彼は何かを思い出したように勢い付けて起き上がると、ベッドの上で佇まいを直した。
今日も、尋常只ならぬ寝癖が付いている。
前髪ではないだろう髪の束が額に掛かっているのが慈郎にもわかっていた。
しかし慈郎はそういったのを繕うよりも先に、手にしたB4サイズほどの箱の、一番中央に大きく描かれたクリスマス・ツリーの、天辺に飾られた星を押した。
ここのところの慈郎は目覚めてから、いの一番にすることがある。
それは、アドヴェントカレンダーの24ヶのドアーを、1日ひとつと順ぐりに開いていくことだ。

寝起きの視界を補正するため瞬きを繰り返しながら、日付けのドアーに隠されたギフトを馴れた手付きで取り出すと、今日のアイテムは、色とりどりに溢れる砂糖菓子。

にこりと笑うと、眠気もどこへやら。

携帯を開くと、見慣れたアドレスを呼び出した。




今年のクリスマス・前夜祭は連休に組み込まれていたためか、雑誌などでも例年よりも沸き立った特集が目立っていたように思われる。
恋人の1人でもいるならば、この休みを利用して仲を深めようと考えるのが普通だろう。
そういった類の意を汲んだ計らいがあったかなかったかと言えば、なかったのだろうが、24日は奇しくも活動日からは外れていた。
それでも、学園のテニスコートには相変わらずの喧騒が溢れている。

「ウォンバイ、アトベー」
ボールのクラッシュ音が響いた刹那、遠くベンチに座る宍戸のコールが入り、ポーディングを整えた跡部はそのままネット際へと歩み寄った。
「スライスもなかなか上手くなったじゃねえの、鳳」
寒空の下、僅かに冷たい掌で握手を交わしたその時、息を乱している鳳に向かって声を掛けた。
このように、部活動もないというのに約束なくも集まってしまうのはよくあることだ。そして集まった者同士、個人の調整が終われば集まってゲームを始めるのが常だった。
今日のメンバーは、2年正レギュラーのほとんどと、1年の鳳だ。
「あ‥ありがとうございます…っ、部長」
「だが、まだ体が硬いな」
「はッ…ハイ…!」
ベンチに座って、試合のコールを掛けていた宍戸は、長身を折り曲げて礼儀正しく頭を下げる鳳と跡部に歩み寄ると、威勢良く踵を返した背中を見送ってから言った。
「オメーが、わざわざ後輩に声掛けるなんざ珍しいな」
人数が少ない上、正式な部活動日ではないからか日頃の部活とはどこか違い、言わば一種の解放感がそこにはあるようだ。
それが常日頃の部活中の跡部の態度と相違している要因だと捉えた宍戸は、それを率直に言った。だが、跡部としては、部長として部員のデータを把握しているので、それが塗り替えられたと感ぜられるプレイを間近で見て、言葉へ乗せただけなのだが。
「‥そうか?」
唇の端で軽く笑うと、差し出されたスポーツタオルで汗を拭った。
「それから、お前のケータイ、さっきっから鳴ってるぜ」
跡部は、コート脇にある木立を越えた向こうの時計塔に掛かる大時計を見遣る。
時刻は丁度14時を指していた。

ここのところの跡部には、毎日同じような内容のメールが送られてくる。
内容というのがたったの一文で、跡部以外の者が見たならば一見なにを指しているのかわからないだろう。今日の一文はこうである。
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