乞ゐ姿 満天の航路
□海ゆく桓星
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ぼおっと呑見続けて酔いも回りさきほどの若い男のことも忘れかけて、隣に座る厳つい男の事など観察しながらそれにも飽きて ふと振り返ると、あの男の ええとクリスの彼女がきょろきょろと誰かを探していた。
まさか喧嘩でも売られるのかと、そろそろと席を立とうとしていると私目掛けてよくとおる声が飛んできた。
「あっ貴女、ねぇ あ、あいつと一緒じゃないの?」
「‥‥いや彼とは本当すこし世間話をしたくらいの赤の他人なので本当‥‥」
ボンッキュッボンの体がエメラルドグリーンのドレスをより美しくしている彼女は、深い青の瞳を少し見開いてフフッと笑った。なんだろう‥‥‥
「やだ、貴女、私とクリスは姉弟よ」
「そうなんですか?!」
緊張がやっと溶けた、酔いがちょっと戻ってきたようだ。
「背が高いのに、なんだかあどけない人ね」
「クリームは子供っぽいでしょう、貴女方からみると‥‥」
「そこがまたいいって言う人もいるでしょ、垣間見える大人っぽさって弟も言ったんじゃなくて?」
「さぁ航海日程のことなど話しましたから」
「‥‥ほら そう言うところ、ね。」
クリスのお姉さんは青い目に悪戯を浮かばせてまた笑った。笑顔のよく似合う人だ。
話を聞けば、放浪癖のある弟 さきほどのクリスという青年がこの船の中でもフラフラフラフラほっつき歩いて、何か問題を船上で起こされても嫌なので目に入るところに置いておきたいとのことだ。語感に、地上で彼は何かやらかしたらしいというのが伝わってきた。
「探すの、手伝いますか?」
余りにもこのお姉さんという人が可哀想になってきた。
「助かるわ!」
がっちり握手されて、失敗は許されないという事も伝わった。
*
取り合えず、お姉さんは大広間以外を探すというので私はしらみ潰しに大広間の人びとから彼を探すことにした。
こう客観的になると、酔っ払うと言うのはあほくさい。
笑ったり、泣いたり、歌ったり、
気持ちを高ぶらさて、
忘れたくても忘れられないことに目を閉じる。
大広間の端、壁の花たちも居ない其処に舞台のカーテンが開けられた隙間に一瞬扉が見えた。
放浪癖のある人ってああいうところ見付けるの上手くないか・・・・?
隠れるにも人を連れ込むにも打ってつけだろう。
私は一目散にそこへ歩いた、
「・・・・・わお・・・」
カーテンの中に入り込めば、案の定の扉。壁と同化した飛行機のハッチのような扉は意外にも簡単に開いた。
音は重々しい先の景色は、暗がりの階段
こんなところに手の込んだ螺旋階段とは。
電気は五メートルほどの間隔にしかなく、階段に至っては螺旋の上に一つ、非常に危ない。
だが降りた先は廊下があり、船室があるみたいだ。
「・・・よし、」
カンカンカ、ン
ヒールが良く響く
「船室が、三つ。」
廊下へ差し掛かると二十メートルほどの奥行きに三つの扉が見える。客室とは違う、木の目扉は金のノブ、廊下の緑の絨毯とよく調和されて 穏やかな美しさを漂わせている。
私が彼なら格好の隠れ場所にするだろう・・・・・・
先ずは、一つめの扉を開けてみることににした。
ガチャン
此処へ来るハッチとは裏腹に小さなノブは重かった
開けた先は、エレベーターの通路のように深く青い闇 ぐんと体は吸い込まれた