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□空を越えて
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『空を越えて』(リボーン:雲雀)
ブルブルと枕の横で振動し続ける携帯。
「いや・・・私今日久しぶりの休日だから、勘弁して〜」
ベットに沈む体は重く、連日酷使され続けた疲労がコッテリでタンマリ・・・
その原因は・・・修行を兼ねた出向先(マフィアに出向とかあるのか?)
・・・今の勤め先のボスの我儘に振り回されているからだ。
無視し続けていた携帯。
ようやく止まったと思ったら・・・再び震え始める事12回目。
・・・我慢の限界・・・ここは一発
ガツーンっ!と言ってやる!
パカリと開いた・・・マフィアという職業には不釣合いなピンクの携帯。
慣れた指先で、ポチリと通話ボタンを押す。
「・・・今日は私、二週間ぶりの休みなんです!すぐに私を呼ぶの止めて下さいよ、スクアーロさん!ザンザスさんの朝食の下拵えは冷蔵庫の中です、昨晩ルッスーリアさんにも言ってありますから!」
途中から・・・段々腹が立ってきて
何で私・・・ここで賄いやってんだ!修行に来たって言うのに・・・イタリアに来て早数ヶ月。
名ばかりの修行少々と(どうみても手加減されてます、スクアーロさんに)・・・
恐ろしく溜め込まれていた書類の整理に殆んどの時間を費やされ、残りは・・・超ど級で我儘な・・・ザンザスさんの食事の支度。
何か・・・味付けが気に入ったとか言われ・・・毎回、キッチンに立たされる私って・・・
何か・・・違うから!違うからこれ!?
私・・・イタリアに修行に来たんですけど!
こんな事なら・・・バリアーなんかに修行に行かせて下さい・・・なんて言うんじゃなかった。
こんなんじゃー私・・・強くなって・・・いつあの人の元へ帰るれるんだろう?
きゅっと痛む胸。
じわりと溢れた涙が、ポタリと落ちて白いシーツに染みを作る。
『・・・誰と話してるつもり?』
その時・・・電話の向こうから聞こえてきた声は、いつものボリュームマックスなあの人の声ではなく
・・・懐かしい、懐かしい・・・人の声。
この人の役に立ちたくて・・・強くなって、認めてもらいたくて
10代目に無理を言って、此処に来させてもらったのに(勿論散々止められたけれど)
今は・・・会いたくて仕方がない。
「あ・・・ひっ雲雀さん!Buona mattina!(おはようございます)」
思わず出たのはイタリア語での挨拶で・・・
『・・・ボクと話してるのに、そんな言葉を使うなんて、噛み殺されたいの?』
お決まりの言葉を返された。
「・・・あ、すいません・・・」
思わず出た謝罪の言葉。
とても心が篭って無いその言い回しは・・・どこか安心しているからで。
だって・・・此処イタリア。
雲雀さん・・・日本、しかも並盛。
とりあえず口先だけでも、謝っておけば大丈夫だろうと思ったのが真実で
・・・が・・・敵(?)は全てお見通しなのか
『へー・・・随分・・・ボクへの忠誠心が無くなったみたいだね?何・・・そっちで可愛がってもらってるんだ?』
冷たく返される雲雀さんの声。
何か・・・色々・・・ろくに修行してないのが・・・バレてる!?
「ちっ違いますよ!・・・そのちょっと・・・今起きたばかりで!」
カバリとベットの上で体を跳ね上げ
何故かフワンフワンと揺れるその上で・・・思いっきり
・・・正座。
「あのっ!すいません!今目が覚めました!」
電話も両手で持つ始末。
『今、どこに居るの?』
・・・はい?
・・・雲雀さんこそ・・・寝ぼけてるんですか?
そんな事勿論口に出す事なんて出来ないから!
それに・・・もしかしたら、雲雀さんなら電話越しでも噛み殺せるかもしれない!と
「私・・・あのー・・・青い空、緑豊かなイタリアに居ります!」
真面目に答えたのに
『・・・本当に・・・バカだよね』
酷い言われように、再び滲む涙。
声聞いたら・・・きっと会いたくなっちゃうからと・・・報告は全て草壁さんにしていたのに
こんなのズルイです・・・
あ、でも・・・テレビ電話じゃなくてよかったな・・・
『今・・・部屋?』
・・・いや・・・だから・・・起きたばっかりって私言ってるんですけど!とか思いながらも返す言葉はキッチリ敬語で
「あ・・・はい、こちらの自室で休んでいました」
止まらない涙をグシグシとシーツで拭った時
『そう・・・じゃ、開けてくれる』
・・・?
意味が判らず・・・ポカーンと口を開ければ
『どうせバカだから、口でも開けてるんだろう?そうじゃなくて、部屋の扉を開けてよ?・・・じゃなきゃ、ぶち破るけど?』
コンコンコンと、自室の扉を金属らしきもので小突く音。
「えっ・・・ちょっ・・・どういう事ですか、ってぎゃー!」
電話に向かって話している途中で
ドカンッと派手な音と共に・・・破壊された扉。
そこに現れたのは・・・
「・・・ひ・・雲雀さん?」
電話を片手に・・・トンファーを腕に装備された・・・雲雀さん。
「と、扉が・・・って、いつこちらへ?あのもしかして急用ですか!」
急いでベットから飛び降り、近くまで走り寄る。
「ついさっきね・・・いつまでたっても帰って来ない、出来の悪い・・・泣き虫の部下をわざわざ迎えにね?」
そのまま腕を取られ廊下へと引っ張り出される。
「はい?ってかあの私、まだこちらで・・・イタリアで修行が!」
私の言葉など聞こえていないのか、スタスタと私の腕を引きながら歩く雲雀さん。
「・・・アイツに・・・みすみす渡すわけにはいかないんでね・・・食事の用意をしてるうちに・・・最後に君が生で食べられるよ・・・って事で今すぐ帰るから」
・・・って、ちょっ!食事の用意って・・・あんまり修行してない事バレてるしー!?
「いやっあのっ、その・・・これには訳が・・・って・・・はい?・・・あの何処にですか?」
「・・・決まってるだろう?・・・日本、並盛」
「・・・あの、でも・・・」
「反論があるわけ?」
「いえ・・・でも・・・」
「強くなりたいんなら・・・ボクの傍でなればいいだろう・・・うんと・・・鍛えてあげるよ・・・いろんな意味でね」
「・・・・・・」
一瞬・・・喜んでいいのか、悲しむべきか悩んだけれど
空を越えて・・・会いに行きたかった人が
今・・・空を越えて
迎えに来てくれた。
私の秘めたる想いは・・・
空を越えて
伝わったのかもしれないと・・・青く澄んだイタリアの空を眺めた。
「きょ・・・恭さん・・・って呼んだら・・・私、噛み殺されちゃいます?」
ようやく止まった雲雀さんの足。
振り返った彼は
「・・・いいんじゃない?隅から隅まで、ボクのもんだって、鋭い噛み痕を残してあげるから」
それは空を翔るヒバリでは無く
まるで・・・猛獣のような顔だったのは言うまでも無く。
日本に着く前に・・・しっかりと身も心にも・・・愛しい彼の痕を残された。
おしまい
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