summon2 long

□幕間 白い悪魔
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薄暗い部屋の中で、一人の少年が本を読んでいる。
上質な衣服を身に纏った少年は、ランプの仄かな灯の下で優雅な手つきでページを捲る。分厚い革張りの本が乗った机には、少年とは不釣り合いな書類の束がそびえ立つ。

本を読み終えたのか、彼は本を閉じるとうんざりした顔で書類に向かう。ペンを握り、気怠げに書類に筆を走らせていると窓の外から鳥に似たはばたきが聞こえた。
彼は窓を見やり、声を掛けた。

「お疲れさま」

バサ、と蝙蝠にも似た翼を羽ばたかせ、少年の部屋の中に一人の悪魔が入って来た。
悪魔は笑顔で労う主の顔を見るとわざとらしく嘆息し、部屋の隅にある彼お気に入りのソファに腰を下ろした。

「…全く、ほんっとーに悪魔使いの荒いゴシュジンサマだよねー…。ただいま」
「君も、本当に口の減らない護衛獣だよね。おかえり」

仕事の後の軽口は、彼らの間ではいつもの事であった。大抵はこの後も、悪魔による雇用条件の文句が続くのだが、この日は早々に本題へと移った。

「それで、どうだった?」
「今の所、これといった動きはなし。屋敷の近辺に、常時三人は偵察に来てるみたいだね。」
「彼らの出方待ち、って所か…それで、軍の特定は出来たのかな?」
「特定出来る紋章らしきものは武器にも鎧にもなかったよ。特殊部隊みたいだったけど。…でも、十中八九ゴシュジンサマの予想は大当たりだと思うよ?」

にやり、と笑う悪魔。彼に『ゴシュジンサマ』と呼ばれた少年は、苦笑いを浮かべて応えた。
件のレルム村襲撃、そして少年の部下の屋敷の襲撃。その襲撃者達の後ろに控えるものに、これからどう対応していくべきか。下手をしたら国同士の戦争になりかねない事態のため、うかつに動けないのが少年にとって歯痒かった。
悪魔による報告はまだ続く。

「それと、レルム村で生き残りらしい爺さんがいるんだけど、一人で死体の埋葬やってたんだよね。あれじゃ絶対爺さん身体おかしくしちゃうから、誰か助っ人を派遣できない?」

この悪魔は、たまに驚く程悪魔らしくない行動を取る。それが彼の面白い所であり、少年は気に入っている。

「わかった。早急に手配しておくよ」

少年は、まだ何も書かれていない羊皮紙に何かを書いていく。
悪魔は、これで自分の仕事は終わりだ、と言わんばかりにだらしなく寝そべる。
静かな部屋に、カリカリと文字の書かれる音だけが響く。

「武器屋の件、うまくやっておいたよ」

視線と手は書類に向かったまま、少年は言った。

「ん、ありがと」
「ゼラムの銃を買い占めておいてくれ、なんて無茶言うんだから。苦労したよ」
「そんな無茶を平然とこなしちゃうゴシュジンサマに、僕は感謝の気持ちでいっぱいです」

悪魔は寝転がったままで、大袈裟に芝居がかった口調で言った。
本当に感謝しているのかわからないな、と苦笑を浮かべて、少年はまた意識を書類に集中させた。
また部屋に、静かな時間が訪れた。

「そういえば」

少年はふと手を止め、思い出したように口を開いた。悪魔は、何?と口に出さず視線だけで少年に問うた。

「例の彼女はどうしているのかな?」

少年の質問に、白い髪の悪魔は答えた。
嬉しそうに、楽しそうに、ほんの少しだけ、寂しそうに。

「あの子はね、今ピクニックの準備をしているんだよ」
 

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