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□エトセトラ
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pm11:34
真っ暗な部屋、明かりもつけずに煙草を吹かす久保田。
携帯の液晶の明かりに眼鏡が反射し、表情は窺えない。
もう何度目か分からなくなった、時任への繋がらない着信を続けていたが、
ふと、カチリと携帯を静かに閉じ、立ち上がる。

SE 玄関のドアの音

マンションから少し歩くと、幾つ目かの街灯の下に、うずくまる時任を見つける。

「時任…っ」

久保田、小走りで駆け寄る。
服は所々汚れ、荒い呼吸を繰り返し、小刻みに震える時任に、そっと近寄る。

「…る、な」

「………?」

「…来るな!」

罵声と共に、久保田に向けられる、時任の鋭い眼光。
息を乱し、定まらぬ視点でそのままずるずると後ずさる時任。
ゆっくりと、時任に近づく久保田。
ヒュッと久保田の目先で風が鳴ったかと思うと、鼻に熱さを感じ、徐々に痛みに変わっていく。
見ると、時任の右手に手袋は無い。

「…時任」

「…な、…くる、な…来るな来るなァッ!
誰も、俺に……近づくな…っ!」

久保田、構わず腕を伸ばす。

「…じゃあ、逃げたら?」

伸ばされた久保田の腕は、時任の右手に阻まれる。

「………っ」

「やめろ、よ…、もう………やめてくれ…っ!!」

時任の爪がめり込んだ腕から、音もなく、血が流れる。

「やめないよ。
お前が、ここから逃げない限り」

ふたりの間に、赤黒い血溜まりが広がっていく。

「時任…わかる?」

そのまま、時任に近づき、頬を寄せる久保田。

「…がはっ、…………あ、」

「…うん、苦しいね。ゆっくり、吐いて……吸って……そう」

「…あ、あ…」

強張った体から力が抜け、涙を零す時任。

「くぼ、ちゃん…?」

「…落ち着いた?」

「………ん。

…なぁ、久保ちゃん。
俺な、さっき―――」

「今日は、遅かったね。
晩飯、ぜんぶ暖め直さないとな…。

あ、帰りに醤油買って帰らなきゃ。」

ふ、と我に返った時任、自らの右手の行方を知り、息を呑む。

「俺っ、また…!」

「………生きてるみたいね、俺も。
ちゃんと、痛いから」

久保田、時任の手を取り、自分の胸ポケットへ導く。

「お前が耐えられなくなったら、いつでもコレを使えばいい。
俺も、すぐ行くから」

「…覚えとく。

一生使ってやらないけど」

ポツリ、ポツリ…と、次第に間隔を縮めながら、アスファルトを濡らし始める雨。

血溜まりが濁されたのを見やると、互いに互いの身体を預け合い一つになった影が、暗がりへと消えていった。



fin.
 

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