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「…あ。」

と、コンビニの帰り道。
片手に持ったビニールを肩からぶら下げながら、久保田が送った視線の先には、盛大に泣きじゃくる子供。

「お、迷子か?」

「だぁね。」

「おい、どうした?かーちゃんとはぐれちゃったのか」

すかさず時任がその子に話しかけると、一瞬泣き止み、キョトンとした顔になったかと思いきや、さっきよりもさらに大きな声で泣き出した。

「あらま。」

後ろで様子を伺っていた久保田は、ほい、と時任にビニールを預けると、すとんと腰を落とし、柔和な表情を浮かべて、その子に向かい合った。

「一緒に、探しに行こっか?」

久保田が微笑みかけると、さっきまでとは打って変わって、ひくひくとしゃくりあげながらも、「あの、ね…」と、迷子になったいきさつを話し出した。

「けっ…。
んだよ、可愛くねーの」

「ん、こっちの僕はどーしちゃったのかな?」

「俺はガキじゃねぇっ!!」

「はいはい。
分かってるよ、後で今ハマってるお菓子、探しに行くから、ね」

「全っ然、分かってねぇ…」

「まぁとにかく、近くの公園にひとりで行こうとして迷っちゃったみたいだから、その辺りを探してみるか」

「へいへーい」

そうして、2人が歩いていた通りからほど遠くない公園の近くを捜してみたが、母親らしき人物は見当たらず、結局、交番に預けようということになり、最寄りの駅前交番に向かおうとした矢先。

「ふっ、ふわぁぁあん!マ〜マぁぁぁ〜!!」

「おい、いきなりどうしたんだよ…。
んなとこに座り込んじまったら、帰れるもんも帰れなくなるぞ」

「いやぁ〜ぁ!
うっ、うわぁぁぁぁん」

「んー、さしずめ、不安だし疲れちゃってもう歩けませんってとこ?

………ほら、おんぶ」

「ひっく…すんっ、

うん…」

久保田が背中に腕を回して促すと、ひょこ…と、その小さな体を大きな背中に被せ、しがみついた久保田のコートの肩口で、涙を必死に拭っている。

「ふーん…」

「何よ」

「なんか、慣れてんのな」

「そんなんじゃあないけど、動物と一緒でしょ、子供は。
言葉や気持ちの伝え方を知らないから。
その行動の本当の意味を汲み取って欲しいんだよ」

子供や動物が残酷と言われる所以は、その無垢さにある。
久保田は自分自身の残酷さを自覚してはいるものの、実感としてではなく客観的にしかとれず、常に動物的な生き物に自身を重ねてそれを見出すしかなかった。
そして、自分の内の黒さと無垢とを見比べて、絶望する。
しかし皮肉なことに、その痛みこそが、久保田に「生てきた」という実感を与えうる、数少ないものの一つだった。

「…ホントだ、ぐっすり寝ちまったな」

「…なんか、あったかいなー、背中。
これから寒くなったら、時任をおんぶしてよっかな。
子供の体温は高いって言うし?」

「ヤメロ!
俺はガキでも、湯たんぽでもねぇっ!」

そうこう話しているうちに、交番まで数メートルというところで、こちらに気づいた警官が指をさし、話をしていたらしい女性が勢いよく振り返る。
すると、女性は血相を変えて交番から飛び出し、久保田の背に向かって子供の名前を何度も呼び、その子の顔を見るやいなや、ホッと胸をなで下ろした。

「本当に、なんとお礼を申したらいいのか…」

聞いた話によると、公園に向かう途中、近所の知り合いの奥さんとバッタリ、そのまま井戸端会議に突入し、夢中で話しているうちに子供がひとりで公園に向かってしまったのだという。
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