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□3センチの恋心
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―――もうどれ位、
こうしてしゃがみ込んでいるだろうか。
ソファに眠ってしまった君から、目が離せない。
こんなザマ、我ながら傑作…と頭のどこかで思いつつ、痺れた足の感覚をそのままに
ただ、秒針の音と紫煙だけが流れて、闇に消えてゆく。
君が望まないなら、触れられない。
そんなズルい言い訳、蹴破ってしまえれば―――。
でも
そうしたら、壊れてしまいそうで。
(自分が…?それとも…)
いつの間にか短くなった煙草の火を、持て余したキモチと一緒くたにもみ消す。
俺は、何をしたいのだろう。
期待と恐怖、漠然とした言い知れぬ予感に、身体中を支配される。
何も知らずに寝息をたてる君が、あまりに眩しくて。
胸が締め付けられる感覚に、ぐっと眼を細める。
今までにない、自ら欲するということの不自然さに戸惑いを覚えつつ、仄暗い感情がずるずると首をもたげるのを止められない。
だがそのたびに、冷静な自分が「お前に何が出来る?」と嘲笑い、君に謝ることしかできない。
君まであと3センチのところで、行き場をなくした掌が、虚空を掴む。
(―――ごめんね、)
そのとき、すっ…と、時任の眼光が暗闇を切り裂いた。
「意気地なし」
「………だね」
君の瞳が僕を捕らえて
僕の両手が君を捕らえた
瞬間、ゼロの距離から
震えた腕で伝えるコトバ
まだ、声には出来なくて
抱きしめることしか
出来なくて
………ごめん、好き。
fin.