短編集

□溶かされた体、心、命
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閉ざされた心の扉。
冷たく凍てついて、開かない。
何人たりともその心を開くことはできなかった。

光があった。
淡く儚い小さな光。
風が吹けば、消えてしまうような、柔い光。
短く切ない明るい光。
誰もその存在に気付くことはなかった。

冷たく凍てつく心。
弱く儚い小さな光。
互いに弱い存在が、ある日出逢った。
今まで誰も開くことのできなかった心が、その時開かれた。
今まで誰も気に留めなかった光が、その時輝いた。

閉ざされていた心を弱く儚い光が満たし、徐々に心身を溶かしていく。
光は一層輝きを増し、その身を揺らしながら生きる。
互いに存在を主張し、命を削りながら共存する。
光は心を拠り所に自ら輝き、心は光のために自らの身を削る。

光の命が尽きた時、そこに残された溶かされた心身は、再び固く硬直し、自らの扉を再び閉ざすのであった。
永久(とこしえ)の闇に、体を預けながら。

一陣の風が、彼らの終焉を告げた。

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