短編集

□素朴
1ページ/1ページ

 青々とした春の空。空には一片の雲もなく、その青は限りなく透きとおっていた。季節を先取りした太陽はこれから訪れる梅雨の分まで自己を強く主張し、ギラギラと真夏のような日差しを、地上に降り注いでいた。
「なあ・・・・・・」
 川原に寝転ぶ少年は、同じように隣に寝転んでいる少女に語りかける。
「ん〜? な〜に〜?」
 少女は少年の顔を見ることなく、気のない言葉を返した。
「空って、なんで青いんだろうな〜」
 たわいない質問だった。知らない、なんて返答を少年は予想していた。しかし、
「青とかの短波長の光が大気中の微粒子にぶつかって散乱するからじゃない?」
「・・・・・・そっか」
 自分と少女との間に、学力の差を知った瞬間だった。

 深緑の街路樹がまぶしい夏、地球温暖化が騒がれている昨今、太陽は梅雨の時期に溜まったストレスを発散するかのごとく、己が力を存分に発揮していた。気温は軒並み例年以上の暑さを誇り、冷房機器によって、地球温暖化はますます進行の一途を辿っている。
「なあ・・・・・・」
 パラソルの下で日に焼けないように気をつけながら座る少年は少女に語りかけた。
「ん? 何?」
 少女は早く海に入りたいのか、素っ気ない返事を少年に送る。
「海ってさ、何で――」
「海が青色の光だけ反射するからよ」
「・・・・・・ふ〜ん」

 夏の暑さがまだ少し残る秋。人々は様々な秋を堪能する。読書、スポーツ、食欲。少年は専ら食欲の秋を満喫していた。
「なあ・・・・・・」
 縁側でくつろぐ少年は、隣で焼き芋にかぶりついている少女に語りかけた。しかし彼女からの返事はない。
「夕日って――」
「黄色や赤の光の波長が長いからよ」

 冬。
「なあ雪って――」
「知らないっ!」
 とうとう怒られた。少年は自分の無知を嘆いた。そして彼は数年後、自然学者として世界中に名を轟かせることになる。しかしそれはまだ先の話。今は――
「なあ――」
「少しは自分で調べなさいっ!」
 ――少年は未だに自己の力に目覚めず、今日も変わらず世界は回る。どこかで誰かが素朴な疑問を持ちながら、今日も変わらず世界は回る。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ