●Novel・OTHERS●
□A lovely autumnal day
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「先輩!」
「真弘!」
拓磨と祐一先輩が、同時に叫んだ。
真弘先輩の動きが止まるのと、私がぎゅっと目をつぶるのと、多分、同時だったんだろうと思う。
「……」
沈黙。
恐る恐る目を開けてみると、真弘先輩と目が合った。
先輩は、バツが悪そうにそっぽを向いてしまった。
何よ、その態度。
人に太ったなんて言っておいて、自分の身長はどうだって言うのよ―
そう言いかけたのを、祐一先輩が制した。
やめておけ。
目がそう言っている。
私は、やりどころの無い気持ちを覚えていた。
「真弘、言いすぎだぞ」
祐一先輩の言葉に、真弘先輩がちらと振り返った。
「珠紀も」
…え、私?
太ったとかハッキリ言われて、傷付いてるのは私の方なんですけど…
ぷう、と、頬を膨らませた。
一瞬、真弘先輩と目が合った。
でもまた、すぐ逸らされてしまった。
何なのよ、もう。
見かねたのか、拓磨が口を開いた。
「あ〜、ホラ、アレですよね、先輩。好きな子はからかいたくなるっつーか。小学校の頃から変わらない鉄則です」
え?
「バッ…てめ、拓磨ァァ!何言ってやがる!!」
真弘先輩が、顔を赤くしながら拓磨に殴りかかる。
それを見て、なぜだか私はとても顔が熱くなった。
何だか恥ずかしい気がして、うつむいてしまう。
「珠紀も、そろそろ真弘の扱いに慣れたらどうだ」
祐一先輩が、いつの間にか私の隣に立っていた。
「分かってるんだろ?ホントは」
そう言って、拓磨を追い掛け回してる真弘先輩に目をやる。
分かってる…?
何が?
聞き返そうとしたのは一瞬だった。
そうだ。
私だって、この人のこと…
私は大きく深呼吸をした。
構わない。
どう思われても。
あのとき、私を必死で守ろうとしてくれた先輩に―
あの瞬間、私は恋に落ちていたんだ。
「真弘先輩!」
勇気を振り絞った一言に、真弘先輩はこちらを振り返った。
もう一言、頑張れ、私―
「今日、一緒に帰りましょう?」
もっと、ホントは話したいことがいっぱいある。
だから―
真弘先輩は、一瞬、驚いた顔で私を見て、すぐにまた目を逸らした。
でも、
「…おう」
バツが悪そうに、一言だけつぶやいたその横顔を、私は忘れない。
何だか、心に暖かいものが広がっていくのを感じた。
傍らでは、慎司くんと、祐一先輩が満足そうに微笑んでいて、遠くで拓磨がニヤニヤしていた。
そんな拓磨を一蹴した真弘先輩は、イテッ、と拓磨がぼやくのも気に留めず、こちらに向かって歩いてきた。
すれ違いざま、
「悪かったな」
と、先輩の口がそう言っていた気がした。
驚いて振り返ると、真弘先輩は、昇降口の奥に消えていた。
「ったく、素直じゃねーな、あの人は」
「昔から変わらんな」
「でも、そこが先輩は好きなんじゃないんですか」
え、何、何でそこに私が出てくるのよ。
この人たちは―
「ま、頑張れよ、珠紀」
そう言って、拓磨は私の頭をぽん、と叩いた。
秋に差し迫る、とある日の昼下がり。
晴れ渡る青空を見ながら、私は一人学校の屋上で、今日の帰りは先輩と、何を話そうかな、などと考えて、自然と顔が綻んでくるのを感じていた。
Fin.
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あとがき→次P
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