●Novel・SRW●

□ダイスキ
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好きだったよ―


「…え?」
発せられた言葉の意味を掴むのに、数秒かかった。


ほこり臭い資料室の一室…
調べ物ついでに、確か、リューネとは、他愛も無い雑談をしていたはずだ。
その証拠に、話していた内容は、さほど覚えていない。

―あれから、直接的な話題は避けてきた。
頭では納得していても、まだ、どこかで納得が行かなかった。
まだこの世界のどこかで、あの人が微笑んでいる気がした。


だから。


一呼吸置いて、リューネが口を開いた。
「ウェンディさん」

はっきり言われても、何と答えていいものか決めかねて、
「あぁ…前も聞いた…」
とだけ、マサキは面倒そうに答えた。
手にしている書物に目を走らせる「ふり」をしながら。

動揺を、悟られてはいけないと思った。

「……」
リューネの沈黙の意味を量りかね、付け加えたように呟いた。

「オレも、きっと好きだったよ」
もう、この話は終わりにしたかった。
もっと、靄の中で、過ごしていたかった。
視界は開けなくていいと、思った。

しかしリューネはそれに気付いたのか、思いのほか食い下がってきた。

現実に、引き戻される。

ガタッ…

勢い良く、椅子から立ち上がる。

「きっと!?きっとじゃないでしょう!!?」
「え?」
マサキは、呆気にとられた。思わず、ページをめくる手が止まる。

リューネは続けた。
「絶対、だよ」
ふと見上げると、何だか泣きそうな表情をしていた。
「あたしも好き。マサキも好き。」

「…それでいいじゃない。そういうひと…そうでしょ?」


「あぁ…」
返事はしたものの、どうやって言ったらいいのか。

どういう答えを返したら、リューネが納得するのか分からない。

正直、リューネの言いたいことは、分かるようで、分からなかった。

「そうだな…」
けれど、そんなことで泣いて欲しくはなかった。
そうさせているのは俺なんだろうなと、おぼろげに思う。


俺はウェンディが好きだった。
それはどんな種類の好きなのか分からないけど…
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