●Novel・OTHERS●

□Moonlight Night
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「どうしたんだ、ルキア?さっきから外ばっか見て」
机に向かっていた一護は、ふと、ルキアが窓辺にずっといることに気が付いた。

「月を見ているのだ」

ルキアは、窓辺に座り、外を向いたまま答えた。
「ふーん。そうやってると、冬獅郎みたいだな」
そう言って、一護は再び参考書に目を戻した。

テストが近かった。

死神代行なんてやっていても、学校はある。
(石田のヤツはいつも1位だっていうしな…どういう構造してやがんだチクショ)
そういう一護も、前回のテストでは18位だった。
全学年322名中、18位だ。
教員に文句言われる成績ではないだろう。
そのために、今回も、一応勉強だけはしておく。しておくに越したことはない。

ふと思い立って声を掛ける。
「ルキア、お前は勉強しないのか?」
「ん…気が向いたらな」
ルキアは月を見たまま、気の無い返事をした。
「いいご身分なこって」
(そういえば、コイツ、死神の学校でも成績は良かったって言ってたっけな)
理不尽な気がしながらも、一護は頭の中で、妙に納得していた。


ふいに、ルキアが問いかけてきた。
「そういえば一護、月の姫の話があったな」
「ん?あぁ…授業でか?」
「そうだ。確か…。…今は昔…」
「…今は昔、竹取の翁といふものありけり、だろ?」
「そうだ、それだ!」
嬉しそうに頷くルキアを見て、一護は、満足気に笑った。

「んで?お前、その姫にでもなりたいってのかよ?」
「あぁ…」
少しの間があって、そうだな、と、ルキア気の無い返事をして、再び月に目をやる。
再びの沈黙。


―月が何だってんだ。


一護は思った。
確かに、今日の月は綺麗だ。
月の明かりと、勉強机のライトだけで、十分明るいように思えた。
窓を開けていても、寒くもなく、暑くもない。
ルキアが窓辺から離れないのも、分かる気がする。
涼しくて過ごしやすい、いい季節だった。


一護は大きくため息をついた。
「お前な、この話には、月の顔見ることは忌むこと・っていう文もあるんだぜ?」
「そうか…」
「そうか、ってな、お前、意味分かってんのかよ!」
心ここにあらずな今日のルキアに、一護は苛立ちを覚えた。
自分でも、何にそんなに苛立っているのか、分かっているのだろう。
以前も同じことがあったから。
もう、あんな思いはしたくなかった。

月を見上げるルキアは、今にも、そのまま消えてしまいそうに思えた。
「!ルキ…」
思わず窓辺のルキアに手を伸ばす。
…が、それと同時に、ルキアの目が、ゆっくりと閉じていった。

「!?」
ドサッ

―その動きはまるでスローモーションで。
月明かりに照らされた、ひとひらに舞う、雪のようだった。


「オイ…!」
声を掛ける間もなく、ルキアは、ごろん、と、そのまま一護のベッドに転がり込んだ。
「オイ、ルキア?」
気付くと、ルキアはそのまますぅすぅと寝息を立てていた。
「ちょ、おま…!そこ俺のベッド!!」
「ん…」
「お前!押し入れに帰れー!!」
「……」
「ルキ…」

「ち・しょーがねーな」

「ったく…」
あーもう!と、ぐしゃぐしゃっと、頭をかいて、一護は、どかっとベッドの下に腰を降ろした。
「俺に押し入れで寝ろ・っていうのかよ…」
無防備に寝息を立てているルキアを、そっと見やる。
月明かりに照らされて、ルキアの雪のような白い肌に、長い睫毛が影を落としていた。

「月、か…」

放っといたら、また、どっか行っちまうかも知んねーしな。
ったく、目が離せねー。


「…もう、一人じゃどこにも行かせねーからな」
月明かりの綺麗な、涼しい夜。
月明かりしかない静かな部屋で。
一護は一人、誰にも聞こえないような小さな声で、消え入るように呟いた。
まるで、自分への戒めのように。
そして、その背中越しにルキアの体温を感じながら、いつの間にか一護も、眠りの中へと意識を奪われていたのだった。




Fin.


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