●Novel・OTHERS●

□Snow
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「うぃーす、待たせたな、井上」
「あ、おはよう、じゃなくて、明けましておめでとうございます、黒崎くん」
そう言って、織姫は深々〜と、頭を下げる。
「お、おう、今年もよろしくな」

軽い新年の挨拶を済ませると、二人は歩き出した。

歩いている途中、一護は、ちらちらと、隣を歩く織姫を見た。
「…?どうしたの??」
「いや、俺、…振袖って初めて見たかも…」
そう言って、恥ずかしそうに、少し目を逸らす。
「そうなんだ!嬉しいなぁ。頑張って着た甲斐があったよ」
嬉しそうに、満面の笑みになる織姫。
振袖は赤い地に、色鮮やかな刺繍が施されていて、織姫の表情を際立たせていた。
その表情を見て、一護はまたぱっと、目を逸らした。

「うふふ〜嬉しいなー黒崎くんと初詣♪」
それに気付いてか気付かずか、織姫は上機嫌である。


数日前―

「ね、どーおしても行きたい神社があるの!」
「いや、いいけどよぉ、井上、そんなに信心深いんだ?」
「そういうワケじゃないけどぉ、新年に神社へ行くのは、すっごく重要なの!」
「そ、そうなのか…ま、どうせ俺も正月は家にいてバカの相手をしなきゃいけないしな…」
「え?」
「あ、いや…こっちの話。んじゃ、行くか、初詣によ」
「ホント?やったぁぁ」
「ん。じゃーまたな」
「うん。」



「お、ここか?着いたみてーだな」
「うわぁぁ、すごい人だねぇ〜」
「はぐれないように、気を付けろよ」
ほら、と言って、一護は手を差し出した。
「え?」
驚いて、一護を見る。
一護は、向こうを向いたままだ。少し、耳が赤くなっているように思えた。
それは寒さのせいかも知れないが、しかし、手の平は、間違いなく、織姫に差し出されている。
恐る恐る、手を差し出す織姫。
「うわっ!冷てー手だな!」
「え、ゴ、ゴメン」
織姫はその声にびっくりして手を引っ込めたが、
その手は、ぐいっと、引き戻された。
「??」
つかまれた一護の手が、すごく暖かく感じた。
織姫は、そのとき初めて、自分の手がかなり冷えていたことに気付いた。
「悪ィ、着物って、あんまあったかいもんじゃないのな。フワフワしたもんあるから、いいかと思って気付かなかった。」
「え、ううん、そんなこと…」
ドンッ
「きゃ」
参拝客は、次から次へと押し寄せてくる。
人波に飲まれてしまいそうだ。
「チッ、危ねーな。大丈夫か?井上」
「うん、ごめん…」
「結構歩きにくそうだな。仕方ねーな」
ぐいっ
一護は繋いだ手を、そのままのダウンのポケットに入れた。
「え?」
「ホラ、これならはぐれねーし、あったかいだろ?」
そう言って、ニッと笑う。
「あ、あ、ありがとう、黒崎くん」

ドクン…ドクン…

「…え、…井上、着いたぞ」
「え??」
織姫ははっと我に返った。しばらく、周りの音が聞こえていなかったみたいだ。
気付くと、二人は賽銭箱の前まで来ていた。
「寒いけど、手、離すからな?」
そう言って、ゆっくり、ダウンから手を出すと、一護は手を離した。
右手だけ、まだじんわりと暖かい。

「折角来たし、お参りでもすっかな」
「う、うん、そうだね」

……

「さてと、帰るか」
「ね、黒崎くんは何をお願いしたの?」
「あ?んなモン…」
「??」
「あのなぁ、そういうのは、人に言ったら叶わねーだろ?」
「えっ?あはは、黒崎くん、意外と信じてるんだぁー」
「ウ、ウルセーな。いいんだよ俺のことは」

「ほら」
と言って、一護はまた、手を差し出した。
「寒いからな。帰りはずっと、繋いでてやるから」
「ありがとう…」

「そういう井上こそ、何をお願いしたんだ?」
「わ、私は…」

………

「うふふ〜」
「な、何だよ気持ち悪ィな」
「えー酷いなぁーもう」
「うわっ、あんま暴れんなって、転ぶぞ!」
「大丈夫だもんー黒崎くんが、こうして、見ていてくれるでしょ?」
「…まぁな…」

「あ!!」
ふと、冷たいものが、織姫の頬に当たった。
「雪だ!」
見上げると、ふわふわと、白い雪が舞い降りてきていた。
気付くと少し、空も曇っていた。
「あー?どうりで、寒いわけだ…」
「雪だよ、黒崎くん!」
「わーった。わーったって。あんま離れんなよ、寒いから」
「…うん」
「ったく、目が離せねーな」


ちらり、ふわりと舞う雪を見て、
二人、家に続く川沿いの道を歩き続けていた。

今年もずっと一緒にと、お互い願いながら…




Fin.


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