付き合い始めて知ったこと。
世間で「紳士」だと言われてる柳生は単なる「変態」だということを……
「ニオウくん」
「なんじゃ」
「呼びたかっただけです」
「仁王くん」
「…あぁ?」
「今日もすてきです〜」
「……そぅか…」
「におうくん〜」
「あ〜もううざいっ!」
とまあ一日中やたらと人の名前を連呼する。
それも二人きりの時だけ。
しかもさして意味もなく呼ぶもんだから、最初は大人しく返事をしてやるがしまいには無視することにしている。
が、無視したらしたでまたやかましくなるもんだから、最終的に怒鳴って黙らせることになる。
何が悲しくて好きな相手を毎度毎度怒鳴らねばならないのか、といつも自己嫌悪に陥るのだが結局毎日同じことの繰り返しで。
いつしかそれが当たり前になっていた。
加えてもう一つ鬱陶しいトコロ。
「ニオウくん、好きです」
毎日やたらと告白してくる。
二人きりの時は言わずもがな、人がいてても耳打ちで囁いてくる。
まさに愛情の安売状態…お前はほんとに日本人か!とツッコミ入れたくなるほど情熱的。
嬉しくない訳ではないが、言われ過ぎるとありがたみがなくなるというもので…
「ニオウくん、好きです」
「…ウザいのう」
嫌そうに吐き捨てたのになぜか柳生はニコニコしている。
「ニオウくんのウザいはウザいじゃないと思います」
「は?」
何を言い出すんだコイツは…
「ニオウくんのウザいはワタシにとって『好き』と同じです」
絶句。
どつきすぎて頭がおかしくなったんだろうか。
「お前、ヘンタイか…?」
「変態とは失礼な。
ニオウくんがウザいというのはワタシにだけでしょう。それがワタシには愛情表現に聞こえるのですよ」
なんというポジティブシンキング。
「それを世間でヘンタイて言うんじゃ」
けれど確かに、
確かに『ウザい』と使うのは柳生だけだ。
むしろこれだけどうでもいい言葉の応酬をするのも柳生だけな気がする。
「…そうでしょうか。ほら、私と仁王君は相思相愛なわけですし、仁王君はあまり『好き』と言ってくださらないので私なりに解釈したつもりだったのですが」
おかしいですねぇ、と柳生は眉根を寄せる。
「ワタシはこんなに愛していますのに」
ちゅ。
人が混乱しているのをいいことに、どさくさにまぎれて額に唇があてられた。
「な、にさらしとんじゃあ!」
ビンタ一発、慌てて距離をとるが当の柳生はニコニコ顔のまま。
「やっぱりニオウくんは可愛いですねぇ」
もう知らん。
こんなヘンタイが好きなんて大概オレも変ということか……
腹いせに「好き」なんてしばらく言ってやらんとこう。
完