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□はなび
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夜中にふと目が覚めた。
真っ暗な部屋、
張り詰めた空気。

普段となんら変わりないそれが異様に感じられて寒気が走る。


―あの頃が一番よかった…
最近頻繁にそう思うようになった。
学生だったあの頃は、彼といればただ幸せだった。それが当然で不変だとすら思っていた。

社会人になって彼と自分の関係の異様さにようやく気付いた。
適齢期の男二人が同居しているなんて世間からすればかなり異質に違いない。
将来性も生産性もないこの関係が続くことで彼を不幸にしているのではないか、とすら思ってしまう。

だからと言って別れられるわけなど到底ないのだけれど。
「ニオウくん…」

不安から逃げようと震える体を自分の腕で抑えてきつく目を閉じ呪文のように彼の名を呼ぶ。

「やぎゅ…?」
不意に光が差したかと思えば、愛しい彼の姿。
すっと枕元に来たかと思うと白い指で目尻を拭う。
「相変わらず、泣き虫じゃの」
よしよしと頭も撫でられ、不安と緊張がゆっくりと解きほぐれていくのを感じる。

大丈夫。
彼の手のひらの熱がそう伝えているようで、
今度は嬉しくて涙がこぼれる。
「ニオウくん…っ」
引き寄せて、抱き締めて、キスをして。
不安がなくなるまでそれを繰り返す。

もう一回…
もう一回。

消えることのない不安を遠ざけるために、

何度も何度も彼を抱き締めた。

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