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□きみと過ごす夏
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窮屈は嫌い
人込みも嫌い

それでも柳生に行きたいと言われれば、
理性とは裏腹に「行く」と反射で応えてしまった。



『あぁヤバい…』
待ち合わせ場所に現われた浴衣姿の柳生に思わず喉を鳴らす。

惚れた欲目を抜いても十分格好いいその姿に、見惚れる以上に欲情を覚える。

柳生がオレの浴衣姿を褒めてくれるが、その言葉すら耳を素通り。

『いっそ帰ってシたいのぅ』
そんなことを思うが、祭りに初めてきた柳生に悪くて言葉にできない。

『まぁ、いいか』
喜ぶ柳生の姿が見るのは嬉しいしな。
とりあえず柳生を満足させて、その後は……
誰にもわからないようにほくそ笑んで祭りへと繰り出した。



「お前買いすぎじゃろ」
初めてだから仕方がないとはいえ、柳生の両手には屋台の食べ物が山のように連
なっている。

「いぇ、いただいたのがほとんどなんですが…」
困惑しつつもその顔はどこか嬉しそうで、ついうっかり「可愛い」などと思って
しまう。
『もうそろそろか』
歩き回った時間はせいぜい小一時間。
けれどもういい加減限界。柳生が欲しくてたまらない。


「…足、赤なっとる」
くっと顎で柳生の足元を指せば、下駄の鼻緒が当たる部分がほんのり赤くなって
いる。履き慣れていないのだから仕方がないが見ていて痛々しい。
「祭りも十分堪能したじゃろ。帰るぞ」
丁度いい言い訳ができたことに内心ガッツポーズをして、渋る柳生の手を引き会
場から抜け出す。
柳生の足に気を遣いつつ早々道を急ぐ。
途中「道が違う」とかなんとか柳生が声をあげるが完全無視。

『丁重に家まで送ってもらえるとでも思ったか』
欲望に塗れた声が頭の中でせせら笑う。

「お楽しみはこれから、じゃよ」
戸惑う柳生の手を強くひいて、誰もいないオレの巣に柳生を招き入れた。




つづく
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